誘惑欲張りJEWELRY『3』

直進注意であります。 ページ30

「御早う御座います。」

　顔を洗い、漸く人様に見せれる顔になる。

風斗くんのお陰と言うべきか、彼の所為と言うべきかは分からないが寝惚けて働かなかった頭もすっかり覚醒し、私は共有ルームへと足を運んだ。

「おはよう、柏木さん。」

「あ、おはよう、Aちゃん。」

　既に起きて朝食の準備をしているのは、長月さんと澄空さん。

「遅くなってすみません、お手伝いします。」

「いやいや、好きでやってるから気にしないで柏木さん。」

そう言って長月さんが微笑む。貴方は聖母か何かですか、と聞きたくなる位優しい笑みであった。

　まさか、こんな朝早くから起きている人が居るとは予想外だ。自分もまだまだだなと反省しつつ、椅子に描けてあった淡い赤色のエプロンを着て朝食を作る2人を手伝い始める。

「フフッ、Aちゃん、少し動かないで後ろ向いて?」

そんな時、澄空さんがまるで小さな子をあやすような口調で、私に笑いかけてきた。

　どうして後ろを?と不思議に思いつつ、言われた通り澄空さんに背を向ける。

「はい、これで大丈夫。少し寝癖がついてたよ。」

　髪を弄られるくすぐったい感触がして直ぐに澄空さんがそう言った。

「あ、ありがとうございます。」

　しっかり髪を整えてきたつもりだったが、まさか寝癖がついているとは思わなかった。寝癖を見られた恥ずかしさと澄空さんに直してもらった嬉しさで、心の奥がくすぐったい。

「おはよー。」

「おはようございマス。」

　少し気分が上がり、機嫌良く人数分のパンを準備していると愛染さんと愛島先輩が眠たそうな目を擦りながらやって来た。矢張り、朝に弱い人が多いのだろうか。

愛染さんは兎も角、愛島先輩は目が最早開いていない。

「愛島先輩、愛島先輩。あーいーじーまー先輩!」

　共有ルームに入ってきても尚、そのまま歩みを止める事無く直進していく愛島先輩。

「ぶつかりますよ。」

「ふにゃぁッ!!」

そう忠告したものの、時既に遅し。愛島先輩は見事に壁と御挨拶。愛島先輩は朝から分厚い木材と熱いキスをかますことになった。

それが仕事であるなら、仕方がない。→←その顔は反則じゃないかな?

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