誘惑欲張りJEWELRY『3』

生意気猫が懐く。 ページ28

「あれ、もしかして聞いてないの? 今日の撮影の特別ゲスト。」

　今日の撮影は確か、金沢名所探索と肝試し。詰まり、風斗くんはその為だけにこんな朝早くからこの寮へとやって来た訳か。

寝起きの私を小馬鹿にする様にして笑う目の前の人気アイドルであり、小さい頃から共に過ごし、育った再従兄弟。

　一緒に居た時間が長く、弟の様な存在であった彼に馬鹿にされると何か腹立つわー。

　少しの苛立ちを押さえ、極力顔が見られない様タオルで隠す。

「寝起きが悪いのは昔から変わんないわけね。うわッ、身長と一緒で中身もそのまんまとかウケる。」

　相変わらずの毒舌、彼も昔から生意気で変わらない。

「身長は多少伸びてるし、寝起きも昔より遥かに良いわ! 馬鹿にすんなアヒル口!!」

　今日も今日とて絶好調な毒舌に、私もいつの間にか顔を隠すのも忘れて、小さい頃と全く同じ様に大人気なく対抗してしまう。結局、どちらも成長せず子供のまま。

「はあー?チビで数学が出来ない馬鹿女の癖して、僕を馬鹿にするとか有り得ないんだけど。」

「数学が出来ないとか関係無いし、馬鹿になんてしてませんけど? 私は只単に事実を明確に、嘘偽り無く述べただけ。それに過剰反応するだなんて、風斗くんはまだまだお子ちゃまですねー?」

　嗚呼言えばこう言う、朝日奈家では恒例行事と化している私と風斗くんの口喧嘩が勃発した。

2人して負けず嫌い。両者共、一歩自分が引いたり、大人になって冷静に対応するなんて事は絶対にしないのである。

「はいはい、お前等そこまで!」

　ギャーギャー言い合い、睨み合っていると誰かが私達の間に割って入って来た。

「文月さん。」

　私達の喧嘩を本当のお兄さんみたいに仲裁してきたのは、皆の頼れるお兄さんである文月さんだった。

　私は喧嘩の仲裁相手が文月さんだと分かるや否や、素早くタオルで顔を隠し直す。

「げッ、海。」

「よっ、風斗。」

　目上の人にはちゃんと'さん'を付けなさい、と注意しようとしたが文月さんとどうやら面識があるうえに、風斗くんが珍しく人前で猫を被らず、本性を剥き出しにしている事から、呼び捨てをしても良い仲なのかと自己完結。

「えっと、文月さん、風斗くんと面識が?」

「嗚呼、結構前にやったロケで仲良くなったんだよな、風斗!」

「アンタが勝手に話し掛けて来ただけでしょ。」

　風斗くんの満更でもなさそうな顔を見て、多少ながら彼が文月さんに懐いている事を悟った。

その顔は反則じゃないかな?→←滅法悪い

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