音楽が好きなのに変わりはない ページ37
五線譜の中で音譜達が快活なメロディーを奏でるかのように踊り出す。それからと言うもの、私の中に次々と溢れ出てくる音のせいで、書く手が止まらない。
一つ一つの音を大切に、個性を主張するけど輪を乱させないよう丁重に扱っていく。
こんなに曲作りが楽しいと心の底から思えたのは、今日が初めてだ。やっぱり私は音楽が好き、そう実感できた瞬間。
誰か周りで何か私に言っているが、今の私の耳には一切他の音が入ってこない。
1曲出来ればまた1曲、止めどなく浮かんでくるフレーズを書き留めるのに必死で時間を忘れてしまった。そしてもう何曲目か分からない曲を完成させた時、私の意識は遠く薄れていった。
「海、柏木さん寝ちゃったよ。」
「あんだけ集中してりゃ、疲れるよな。寝かしといてやろうぜ。」
夜と共に夕食の片付けをしていた海に、涙は少女の様子を告げる。
洗っていた皿から目を離し、涙を見ながら海はそう言い、さっきまでの少女の姿を思い浮かばせる。
突然鞄から五線紙とシャープペンシルを取り出し、床に這いつくばって作曲をし出した。
自分の世界に入ると回りが見えなくなってしまう所は、隼と一緒だなと思わず苦笑する。
何度声をかけても聞く耳を持たない否、聞こえておらず、まるで音楽の魔女が乗り移ったかのように曲を作り続けている姿はなんだかとても、彼の目には魅力的に写っていた。そんな少女に惹かれたのは、恐らく海だけではないだろう。
隼は前から彼女の事を気に入っていたが、更に気に入った様子で、「セイレーン様の御光臨だね」等と訳の分からない事を呟きながら御満悦。卓越した音楽センスを持つ涙は、彼女の独特な音楽センスに魅入られたのか、彼女の作曲する姿に興味津々で今の今まで彼女の様子を近くで見ていた。
夜はと言うと、「夕飯要るかな?ちゃんと食べないと体に悪いよね。彼女の分も取っておこう。」と母親の様に彼女の事を心配していた。
陽や郁は彼女が何をしたら此方に気付いてくれるか実験してみようと、年相応の男子の様に悪ふざけをしていたが、そのうち静かに彼女の作曲する様子を眺めだして数時間その場から動かなかった。
暫くして夕食の片付けを終えた夜と海が、涙と共に彼女、柏木 Aの様子を見に行くと、Aは共有ルームの片隅で、無造作に散らばっている五線紙達の山に埋もれ、仔猫のように丸まって寝ていた。その横に、同じく丸まって眠るヤマトの姿もあった。
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作者名:櫻餅 | 作成日時:2017年5月29日 10時