【あんスタヤンデレ短編集】狂いは全て、愛ゆえに。 (ページ2)

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天祥院英智と聖女の牢獄② ページ2

「部屋から出たんだね？」

そう小さく、低い声で言った。聞かなくても、分かっているくせに、知っているくせに。

「ごめん、なさい」

謝っても時遅し、腕をつかむ力はドンドン強くなって、痛い。考えなくとも当然なのだ。私は守らなければいけないことを破ったのだから。

「言ったはずだよ…？部屋からでないでって！僕だけのものでいてって！そのために君の好きなもの、全部全部用意したのに！」

かんしゃくを起こしたように私を大声で怒鳴り付ける。腕を掴む力は更に強くなり、肌に爪が刺さって血が滲む。

「痛いっ」

それが痛くて、声を出せば彼は我にかえったように力を緩め手を離した。私が離れたのと同時に後ろに下がる。

少しずつ垂れる血が綺麗なベッドシーツを汚す。彼がそれを見てあぁ、と弱々しく呟く。

「っごめんね、ごめん…」

少し涙を流してベッドからおり、隣にある引き出しから包帯と塗り薬を取りだし震える手で私の腕に薬を塗る。塗り終えると、その上に包帯を巻く。

「大袈裟ですよ」

といっても傷が残ったら大変だと聞かなかった。貴方がつけた傷なんて、もういくつもあるのに。

「本当にごめんね」

弱々しく謝る彼はさっきと同一人物とは思えなかった。包帯を巻き終えたたあと、私に触れないのは彼なりの反省だろう。

「嫌いに、ならないで」

さっきよりも弱々しく、かすれるような声で呟いた彼は幼いこのように見える。母を必要とする子のように、捨てないでと。

…本当に、ずるい人。そして、ワガママな人。

それでも私は、

「嫌いになんてなりませんよ」

座ったまま抱きしめる。

大丈夫、一緒にいますよ。貴方がそれを望む限り。それが今の私の存在意義。

「ありがとう」

微かに震える手で抱きしめ返される。

けれどきっと貴方は笑っているのでしょうね。

貴方から離れない、哀れな私を。

(聖女は望まれる限り離れない)