イロコイ・ライン【ars K.N】 (ページ12)

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12.ミルクティー。ページ12

秘書、だなんて名ばかりの先生専属の雑用係に立候補した私は、それから時々先生から呼び出された。

HRの後に一緒に準備室まで連れてかれて「授業までにこのプリント配っといて」ってプリントの束を渡されたりとか「図書室でこの本借りて来て」ってメモを渡されたりたとか。

先生の言う『ご褒美』は、一ヶ月に一回くらい？
忘れた頃に「今日はカフェオレもあるけど、やっぱミルクティー？」とか言われて、思い出す。

オレンジジュースだったり、サイダーが出て来る事もあるけど

ミルクティーは必ず選択肢の中にあって

私が最初にミルクティーを飲んだからなのか、先生が勝手に私の好きな飲み物をミルクティーだと思ってるのかは分からないけど

ミルクティーを見たら、私を思い出してくれたら良いなって。

そう思って、私はいつもミルクティーを選んだ。

どんなに炭酸が飲みたかった暑い日も、私は喉に纏わりつくようなミルクティーを選んだ。

「ミルクティーばっかり、飽きない？」
「飽きないですよ。じゃあ先生はビール飲むの飽きますか？」
「あー...ハハッ、飽きないな」
「フフッ、でしょ？それと一緒です」

蝉の声がやけに大きく聴こえる国語科準備室。
こんなに大きく蝉の声が聴こえるのは、きっと窓のすぐ側の木にその鳴き声の主が止まってるからだと思う。

「蝉、うるさいですね」
「まぁそう言ってやんなよ。アイツら、短い人生なんだから」
「あれは、その運命を憂いてる泣き声ですか？」
「いや、この世に産まれた喜びを大いに歌ってんだろ」
「...そう言われると、素敵な声に聴こえます」
「だろ？」

空調のきいた部屋の窓はきっちり閉められて、薄く白いレースのカーテンが引かれてる。

その窓を先生が首を捻って見やる。

白い首にス...っと入った筋に、胸がギュっとなる。

「良い声だ」

あまり唇を動かさずにそう呟いた先生が、口角を緩く上げた。

さっきまでうるさいと思ってた蝉の声を、今はもうそう思わない。

先生の言葉は魔法だ。

ミルクティーの蓋を開けて、口をつける。
甘い甘いミルクティーが喉を通って、胸までいっぱいにしていく感じがした。

「先生、夏が好きですか？」
「夏...は、そんなに好きじゃないけど嫌いでも無いかな」
「どの季節が好きですか？」
「んー、いつだろう。結城は？」
「んー、いつだろう」
「ンフフ。真似すんなや」

私は、先生に出逢った春が好きです。

でも先生と過ごす季節はどの季節も幸せ、でした。