それは、タカラモノ 〜第三章 幻影〜

side Y ページ25

「なんで、そんな無茶させるんですかっ！」

「仕方ないよ、彼自身の意向だしさ」




俺が、チーフマネージャーに食い掛ると、彼は少し困ったようにそう言った

ミツが退院するのは、明後日の話だ

それを、5日後から仕事させるなんて・・



「本人が、藤ヶ谷の分も僕がっていうんだからさ。もう北山に、特にケガはないんでしょ？」

「なっ・・・」




ケガはない

そう言われても、俺は納得なんていかない

それはあくまで医学所見の話だ

体と心は、別だ・・



例え体の傷がいえても・・・

心は

いや・・カラダの傷は、治る

傷も癒える



じゃぁ、心は？
ミツの、傷ついた心を癒してくれるのは・・？

そんなの、世界中でただ一人しかいないのに・・
その一人を失ってしまった気になる



あの日、目を覚ましてから一度も俺たちの前で涙を見せないミツが、俺は気になった

太輔にも会いに行かないと言って
一人ただ、平気な風にふるまっている

ミツの、悪いところ

すぐに強がって、全部自分だけで解決しようとして・・




『俺は平気だから・・』




そんなことないはずだろ

なぁミツ


傷ついて、一番辛いのは・・




ミツだよね・・？








「わったー・・ね？」


ニカが、熱くなった俺の肩をつかんだ

その目は、何を言っても無駄だと言っていた


わかってる、活動休止が嫌で、こうすることを選んだ以上我儘は言えない
仕事をするうえで、そんな私情は挟めない


でも、でも・・・



「ね、ミツが戻ってきたら俺達でしっかり、支えてあげようよ」


すっかり頼もしい顔をした、ニカがそう言った

そのまなざしにこたえるように、俺は静かに頷いた

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