長男の涙 5 (智) ページ5
翔Side
翔「誰から電話? 智にぃ?」
風呂から上がってリビングに入ると、
潤が受話器を置くところだった。
潤からの返答は俺の予想通りのもので、
智にぃは今日は帰らないとのこと。
翔「智にぃ、忙しいのか…
身体壊さなきゃいいけどね。」
潤「そうだね。
でも声は元気そうだったし、大丈夫じゃないかな。
ご飯も食べたって言ってたし。」
翔「そう。ならいいけど。
最近俺、全然智にぃの顔見てないんだよなぁ。
智にぃ帰り遅いし、
朝もいつの間にかいなくなってるしさ。」
仕事の資料をつくるため
夕飯を終えるとすぐに部屋に戻っていた俺は、
同じ家に住んでいるにも関わらず
ここ数日智にぃに会っていない。
忙しいなら仕方ないんだけどさ…
医者をやっていれば、
数日間家に帰れないときだってあるもんな。
翔「じゃあ俺、部屋に戻るわ。」
潤「ん。わかった。
後でコーヒーでも持っていこうか?」
翔「あー、助かる。
たぶん今日も徹夜だもん、俺。」
潤「了解。
目が覚めるように、
めちゃくちゃ濃いの入れてあげるよ(笑)」
翔「やめろよ。飲めねーよ(笑)」
.
…………こんなふうに、
くだらないことで笑っていたのが2日前のことだ。
俺が笑っているその瞬間も
智にぃは苦しんでたんだって思ったら、
何も知らずにヘラヘラしていた自分に無性に腹が立った。
気付けなかったのは俺だ。
今考えてみれば、
おかしなところなんていくらでもあった。
何より、この5日間、
智にぃが食事をしているところを見た人は誰もいない。
昨日も一昨日も、病院に泊まり込んでいたのは、
本当に忙しいからだと思っていた。
だったとしても、そこまで働き続ければ
身体に負担がかかっていることは明白で…
その時点でちゃんと気にかけてやるべきだったんだ。
自分も仕事に追われてて余裕がなかったなんて、
そんな言い訳は通用しない…
ごめん…、俺が悪かった…って思うのに、
口から出るのは智にぃを責める言葉ばかりで…
翔「どうして言ってくれなかったの?」
＿＿＿＿言ったところで迷惑をかけるだけ。
そんなの言えるわけねぇよな…
俺だって、智にぃの気持ちは痛いほどよくわかる。
なのに……
智「……ご、めん。」
智にぃの震える声を聞いて、
怒りのような、後悔のような
何とも言えない感情が湧き上がってくる。
そうして俺はまた、智にぃを追い詰めてしまうんだ…
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作者名：ちさ
| 作成日時：2013年6月29日 14時
