長男の涙 4 (智) ページ4
智Side
幸いゆいちゃんの熱はたいしたものではなく、
午後にはすっかり元気になった。
そんな姫と遊んで過ごした休日。
それから3日経った今、
僕は窓から暗くなった外を眺めながら
スタッフルームのソファーに身を沈めていた。
仕事はすべて終わった。
だからもういつでも家には帰れる。
なのに、僕にそのつもりはまったくなかった。
もう9時を回ってるから
みんな夕食を食べ終えてまったりしているころだろう。
それでも僕が家に帰れば
すぐに温かい食事が用意されて、
美味しそうな香りと湯気を漂わせるんだ。
でも、今の僕にとって食事は何よりも辛いもの。
ご飯を作ってくれてるAには申し訳ないんだけどね…
今までは無理して食べてたんだけど、
3日前からはまったく食べ物を受け付けなくなった。
夜、家に帰っても、
お昼が遅かったからお腹すいてないとか
同僚と外で食べてきたとか
そんな嘘をついて誤魔化した。
朝食もみんなが食べ始める前に、
仕事が忙しいからと
早めに家を出ることで逃れたり……
だけどもう、そんなことをするのも限界。
こんなの、ばれるのも時間の問題だ…
なのにどうしてこんなことをしている?
皆を騙している自分にイライラして仕方ない。
智「……んっ、うぅっ!!…ｹﾞﾎｹﾞﾎｯ!!」
チョコレートでコーティングされた
クッキーを少しかじっただけで、胃が拒絶し吐き気を催す。
このままじゃまずいと思って何度も気合で食べてみたけど、
一度も飲み込めたためしがなかった。
しかも、前々からあった胃痛がここ数日で増悪し、
よけいに食欲は低下している。
まぁ低下も何も、
もうまったく受け付けてないんだから
胃痛があろうがなかろうが変わらないんだけど。
智「……あ、もしもし、潤?
今日、病院に泊まることになった。
ん?……うん。
そう、気になる患者さんがいて……
……あぁ、大丈夫だよ。ちゃんと寝るから。
うん、ご飯も食べたよ。
じゃ、みんなにもそう伝えておいて。
……うん。おやすみ。」
耳からスマホを離し、通話終了の文字を見つめる。
しばらくして画面が黒くなったのと同時に、
僕の頭の中も真っ暗になった。
暗闇にあるのは、後悔と罪の念だけ。
募るイライラに、握りしめた手に力がこもる。
なんだよ……情けねぇ!!
らしくないほど頭に血がのぼった僕は、
壁に叩きつけそうになったスマホを
キリキリと痛む自分のお腹に思いきり打ち付けた。
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作者名：ちさ
| 作成日時：2013年6月29日 14時
