- 自分のことすら分からない/第二話 ページ27
.
ゆるゆると漕いでいた筈だったけれど、気が付けばなずな先輩は凄く高いところにいて。太陽に照らされる彼は、眩しかった。
(…また会おう、って言ってくれるんだ)
いつ来るのかも分からない、まともにアイドルとして活動もしていないようなちっぽけな奴に対しても手を差し伸べてくれるプロデューサーは、本当に女神のようで。ただの同じ女子高生の筈なのに、気が付けば同じ場所から始まった彼女すら遠くに行ってしまったように感じてしまう。
それでも、やっぱり嬉しくて。アイドルとは言えないわたしを、わたしとして扱ってくれることが。こんな小さなことでも嬉しくて、そっか、と薄く笑みをこぼす。そんなわたしを見たなずな先輩は、A、と名前を呼んだ。
「おれ、またAとライブしたい」
『…………え、なんて、』
「おれたち『Ra*bits』と『Knights』。あと『Valkyrie』だろ〜？他には…そうだなぁ、『Trickster』とかも呼ぶか？」
『なんの、話』
「おれたちの合同ライブ」
夢ノ咲の、おまえが大好きな人達、みんなでさ。
赤い瞳が、細められる。彼の口からこぼれる言葉は、つい1年前までは毎日のように聞いていたものばかりで。突然出てきたライブというその単語にぴくりと肩を揺らしてしまうのは、アイドルとしてその場を何度も経験したから故なのだろうか。
『なんで、わたしは、』
「おれは！…おれは、おまえと居られて幸せだった。…あのライブは、おれたちの幸せだった。おれは、またあの幸せを掴みたい」
『でもそれなら、わたしが居なくたって』
「おまえが居なきゃだめ」
おまえが出会わせてくれたから、あのライブが出来たんだ。
『なずな、先輩』
「おれたちは本当に、おまえに会えて、同じステージでライブができて、幸せだった。……だからさ、おれはAとまたライブがしたい」
笑って、泣いて、歌って、踊って。またおまえと舞台の上に立ちたいなって思う。
そう言って、なずな先輩は鎖を掴んでいた左手を離して、こちらに伸ばす。なんで、という言葉から続けようとした、本音。その声に被さって来た彼の声は、普段の声量と比べて叫ぶように大きくて。
考える暇すら与えてくれないほどの怒涛の展開に、思わず驚いて目を見開けば、にし、と悪戯っ子のように可愛らしく少年のような笑みを浮かべる。人形じゃない、人間らしいその笑みは年相応で。凄く愛らしかった。
.
- 自分のことすら分からない/第三話→←- 自分のことすら分からない/第一話
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 202人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ラビット_(プロフ) - オンナさん» 展開にわくわく…！凄く嬉しいです、ありがとうございます！続編でもよろしくお願い致します🙏 (7月18日 5時) (
レス) id: bc77977d93 (このIDを非表示/違反報告)
ラビット_(プロフ) - とわさん» そう言って頂けて嬉しいです😊🌟続編でもよろしくお願い致します🙏 (7月18日 1時) (レス) id: bc77977d93 (このIDを非表示/違反報告)
オンナ(プロフ) - とても面白くてこれからの展開にワクワクしています。続編楽しみです！ (7月17日 9時) (レス) @page49 id: dee2fbc24a (このIDを非表示/違反報告)
とわ(プロフ) - めっちゃ面白いです！頑張ってください！更新待ってます。 (7月10日 22時) (レス) @page47 id: ac6daa7edc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：らびまる | 作成日時：2023年3月29日 8時
