あの頃はそれがこの世界の全てで【高尾和成】

Good Old Days 020 ページ33

「つっかれたなー」


　和成が大きなため息とともにそう言った。


　私は頷いて肯定の意を示したが、バスのシート越しだったので多分、後ろの席の和成と真太郎には伝わっていない。


　今は、合宿帰りのバスである。まさかの合宿丸飛ばし。


　行きのバスは大富豪やらウノやらをしてはしゃいでいた私達も、地獄の合宿を経てヘトヘトに疲れ切っていた。


　マネージャー1人ってただでさえ大変だ。身を持って実感した。カントクにスポドリの作り方を教えてやってくれ、と誠凛さんに泣きつかれたのだが……まぁその後は察して下さい。


　他人とやるとモメるカードゲー厶ランキングナンバー1(私調べ)のウノをチョイスした自分を殴りたい。マジで過酷だった。


　まぁでも相田さんと仲良くなれたし、誠凛の偵察もバッチリだったから、今回の合宿で得られたものは多い。


　でもこの座席順はどうなの。


　私の後ろは和成と真太郎。これは良い。てか和成以外に真太郎の隣務まらない。


　通路を挟んだ隣は、主将と木村さん。これも良いよ、部の役職的に。


　その後ろは宮地ブラザーズ。いや兄弟一緒にしちゃう？ と心配していたが、2人とも仲良くおねんねしている。寝顔がそっくりでキュンと来た。


　だが一番の問題は、私なのだ。何故か監督。隣に中谷監督。お疲れ様気味なマサアキナカタニ。大事なことだから3回言った。


　監督の隣なら副顧問とかさ……色々あるじゃん？ 後ろに3人席あるんだからそこに私と和成と真太郎で座らせてくれたって良かったじゃん。


　オイ座席決めたの誰だ。座席決めじゃんけんで負けたの誰だよ。私だよバカヤロー。そもそも監督の隣をハズレ扱いにするな。


　私もラッキーアイテムで運気補正した方がいいのかな……とか考えごとをしていると、監督がいきなりスクッと立ち上がる。


　バス運行中なんで危ないですよ、と言ったが聞き入れて貰えなかった。


　特にすることもないので監督が何をするのか注目していると、彼が手にしていたのはなんと写ルンです。それで生徒達の寝顔を撮っていく。ていうかそれ、まだ売ってるところあるんだ。


　監督そんな趣味なんですね――とは口が裂けたって言えない。監督既婚でしたよね？ それ夜のオカズですか？ お巡りさんこっちです。


　だが後日、その写真の用途は
「夏休みの宿題終わらなかった奴は寝顔写真晒すからね」
という監督の爆弾発言によって明かされるのである。


　

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