飲み明かす ページ7
「本当、ご迷惑おかけしました……」
俺が水を飲ませると、教官の酔いはあっさりと覚め、教官は落ち着きを取り戻した。
結局追加で1本開けられ、合計17本飲んでおいてすぐにシラフに戻るあたり、驚異の代謝速度を感じる。
「いつもあんな量飲んでいるんですか? Aの心配をする前に自分の心配してください」
「いやぁそう言われると返す言葉もないわ」となぜか若干照れながら言う教官にため息が出る。
「一つだけ弁解させてもらえるならば、ああやってバカみたいな量飲むのは、月に一度くらいだから……月一の楽しみ、許してよ」
教官は、空になった缶ビールの縁を指先で弄びながら、子供のような無邪気さを秘めた目を向けてくる。それでいて頬にかかった茶色の髪がアダルティーな魅力をそっと醸し出している。
ああ、きっとAが今の教官くらいの年齢になったら、こんな風に巧く言いくるめられて、結局飲み明かされるんだろうな。
「だから……もう1本開けていい?」
「駄目です。もう17本も飲んでるんですよ?」
これだけ飲んでおいてまだ飲むというのか。
この人、それだけストレスや不安を溜め込んでいるのかもな……。
「じゃあ、君と半分ずつでいいから、さ?」
「……本当に、それで最後ですからね?」
しぶしぶ了承すると、教官は心からうれしそうに台所からグラスを二つ持ってきた。
「こうやって、向かい合って誰かと一緒に飲むっていいわね」
グラスの半分に注がれた缶ビールを美味そうに喉に流し込む教官。とても17本飲んだ後とは思えないくらい見事な飲みっぷりだ。
俺もまあ、付き合い程度に少しずつ飲んでいる。つまみの枝豆を食べる時間の方が長いのは明日の二日酔いを防止するためだ。少しずつ、食べながら飲めば悪酔いもしないだろう。
「アランくんは慎重ね。私やAはかなりの量飲んじゃうんだけど」
「自覚があるなら、少しは俺を見習ってくださいよ、もう」
そんな少し軽い口がきけるようになったのは、アルコールが回り始めた証拠。
「わかっていてもね、飲んでいないとやっていけないのよ……」
教官はグラスをとん、と置き、目を伏せた。
やはりいろいろと溜め込んでいるものがあるみたいだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
晩酌の後、俺はコップ一杯の水を飲み、テーブルに突っ伏して爆睡している教官の代わりに空いた18本の缶ビールを片付けていた。
まさかこんなに飲むなんてな……将来が心配だ。いや、あの人なら大丈夫か。
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作者名:頂志桜 | 作成日時:2018年9月29日 14時