予想していた着信 ページ29
【アラン視点】
代表のところを離れた後、すぐに教官の元に帰るわけにはいかず、霧雨が降り続くミアレのとある狭い路地をふらっと歩いていたときだった。
突然、俺のホロキャスターが着信を知らせた。この時間に掛けてくるのは、彼か。
「よう、『ミリップ』」
『まだ声も出してないのに、よくわかりましたね』
彼は少し疲弊したような声で答えた。
「そろそろまた掛けてくるかと思っていたんだ。あいつが復活するまでそう時間はかからないだろうからな」
『まったく、彼女のことは何でもお見通しですね』
「何でもではない。あいつが自ら乱闘を繰り広げたのは想定外だった」
彼は控えめに笑い声を上げた。こいつも疲れているのだろう。
俺の言葉通り、Aが本当に危険な状態になるまで手を貸さずに辛抱してくれた。俺が代表のホロキャスターを通して見たあの映像の中に、緊張した彼の姿があった。あの状態でよく表に出ることなく、Aを見守っていてくれたな。
「それで、あいつの様子は？」
『至って健康です。瞳の色も緑色に戻っています。力を使った自覚もあるようで、目の色を気にしていました』
あれは完全に無意識のものじゃない、と。なるほど。今のところ後遺症もなさそうだし、経過観察か。
「了解。ありがとな」
『本当ですよ。こっちは病院との交渉からポケモンセンターのチェックアウトまで全部行ったんですから』
そう、こいつはすべて完璧にこなしてくれた。早朝に確認の連絡をしたときに、もしAが倒れたらこうしろと俺が言ったことをすべて実行に移してくれたのだ。感謝しかない。
「その点、俺は目的を達成できなかったな……不甲斐ない」
『仕方ないですよ。当人の意志に反する解放は僕も望んではないです。その代わりに、アランさんは貴重な情報を得たじゃないですか』
俺が代表の元を去った後、すぐにこいつと通話した。そのとき、自分が見たもの聞いたものすべてをこいつに伝えていた。プロトタイプの話も、全部。
こいつも一研究者だからか、わかりやすいほどに興味を示し、一段落ついたらプロトタイプに話を聞きに行きたいとまで言っていた。
「まあな。それで許してくれ」
『許してますよ。きっと彼女も』
だといいが。
彼の気が休まる時間を奪ってはいけないと思い、そろそろ切ろうと思った。
「本当にいろいろとありがとな。助かった」
『ええ。また連絡しますね』
そこで通話が切れた。
「またな、『ミリップ』……いや、プリム」
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作者名：頂志桜 | 作成日時：2018年9月29日 14時
