おぞましい気配 ページ17
エレベーターの中は行きに使ったものよりも狭かった。俺と代表、二人も乗ればあと一人ギリギリ入れるかどうかの狭さだ。
このエレベーターまでたどり着くのにも、言われなければスルーしてしまうような長く狭い廊下を通らなくてはならなかった。しかもあのプロトタイプの部屋からしか通じていないようで、初めて来たのなら見つけるのはまず無理だろう。
そんな隠されたエレベーターの中で、俺と代表は横並びになってエレベーターのドアを見つめていた。決してお互いの顔を見ることはなかった。
それでも、俺は代表に問いかけた。
「あなたはプロトタイプをどんな目で見ているのです？ 話を聞くに、『彼女』はただの研究対象ではないでしょう」
代表は迷いながら、比較的小さな声で答えた。
「ああ……。『彼女』は極めてイレギュラーだ。おかげで私は『彼女』の命令には逆らえないようになってしまったよ」
自嘲するような低い笑い声が聞こえる。
「私にとって『彼女』の命令は絶対だ。どれだけ私が嫌忌しようとも、『彼女』の言うことは受け入れなければならない。例えば……」
「私の下を離れた部下に最大の秘密を明かす、だとか」と、とげとげしい音色で彼は言い切った。
「事実、私が決断すれば今すぐお前を捕虜にしてやることもできる。拘束して、もう二度と彼女に会えなくすることも、な」
隣からおぞましい気配を感じ、身が震えた。この人の本心はこっちだ。
「それをしないのは、お前と彼女に手を出さないよう『彼女』が命令したからだ。お前たちは『彼女』のおかげで安全に生活できているのだよ」
俺とAの接触を断ち切るだけというあの不自然な要求には、プロトタイプの存在が絡んでいたというのか。
「一つ、こちらからも訊いていいか」
俺は咄嗟に返事をしたが、出てきた声はエレベーターの動く音にかき消されるほどの小さなものだった。それが聞こえたのかどうかはわからないが、代表は言葉を続けた。
「そのメガリング……キーストーン……どこで手に入れた？ 簡単に手に入るものではないだろう」
そうか、俺はキーストーンとメガストーンを回収されたのだった。今のこれをシズカに貰ったことを、代表は知らないのだ。
「旅の途中に出会った人から貰ったんです」
間違いではない。言葉が足りないだけだ。
「……そうか」
なにか言いたげだったが、代表はそれっきり口をつぐんだ。
エレベーターが急に止まって体がガクンと揺れ動いた。どうやら着いたらしい。
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作者名：頂志桜 | 作成日時：2018年9月29日 14時
