あり得なくはない話 ページ15
元シズカの謎めいた答えを聞いて、俺はさらに混乱するはめになった。ただでさえ、あの雪に囲まれた大地で成仏したはずのシズカがここでまた実体化しているということも信じがたいのに、その上他の存在ときたか。頭がパンクしそうだ。
『ごめんなさい。言い方が回りくどかったわね。つまりは、今の私、シズカと呼ばれていた存在はある意識集合体の一部。その集合体の通称がプロトタイプ。わかるかしら?』
「プロトタイプの中にシズカ……お前がいるってことか?」
プロトタイプは微妙な表情をしながらもうなずいた。大体はその理解でよさそうだ。
「それで、他の存在って何なんだ? そもそもどうしてお前がここにいるんだよ? さっきからはぐらかされてばっかりじゃないか」
『あまり焦らないで頂戴。急かしても理解が追い付かないと思うわ』
ずいぶんと見くびられているようだが、確かにそう簡単な話ではなさそうだ。少し落ち着こう。
『そうね……まずは、私がミズゴロウとしての命を使い果たした後から今に至るまでの経緯を話そうかしら。少し長くなるとは思うけれど、きっとあなたのすべての疑問に答えられると思うわ』
そして俺は、シズカがミズゴロウとして亡くなった後何が起こったのかを聞かされた。
信じられない話だった。しかし、あり得ない話ではなかった。
これをあり得ない話というならば、夜の公園でAの歌声に重なったあの声も、俺の前に現れた実体化した彼女も、なかったものとなってしまう。
『これであなたの疑問には答えられたかしら?』
「一応、そういうことになるな……」
まだしっかりと理解できてはいない。それでも事実を教えてもらったことには変わりがない。
『それなら、対価として私の頼みを聞いてほしいのだけど』
プロトタイプが培養槽の壁に手をつく。綺麗な白い手のひらが俺の方に向けられた。
「なんだ?」
『あなたは、今代表が行っている私の……プロトタイプの実験のことを嗅ぎ付けてここに来たんでしょ? そして、それを止めようとしている』
うなずいた。その通りだ。本来の俺の目的は、『S計画』の情報収集と、未だに行われている実験を止めること。
「ああ。俺はお前を……お前たちを、その培養槽の外へ連れ出しに来たんだ」
プロトタイプはなぜか顔を曇らせた。
『私の頼みはその思いを無駄にしてしまうわ。でも、どうかお願い。
私をこの場から連れ出さないで』
衝撃的な言葉だった。それは実験を続けさせるという意味だから。
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作者名:頂志桜 | 作成日時:2018年9月29日 14時