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回想 10 ページ12

Aside
「はぁあ……」
元々行く予定だったデパートのトイレの中で、私は大きく溜息を吐いた
休日だが朝早いためか、人数はまだ少ない
鏡に映る姿は、酷く情けない

いくら咄嗟のこととは言え、きっと兄さんを傷付けてしまった
何日も前から、私は今日の事を楽しみにしていたのだ
この日の為に、わざわざ敦君達に服まで選んでもらった

右手に持った紙袋の中を覗く
アンティーク風な、万年筆がその中にはあった
もうすぐ、父の日があるのだ
兄に父の日を祝うのは正直おかしいのだろうが、私を一人前に育てようとしてくれている兄に、少しでも感謝を伝えたくて
無い頭を必死に捻って、社長にまで協力して貰って
それで、今日渡す予定だった
小遣いをちまちまと貯めて
鏡花ちゃんに教えてもらった美味しい和食料理屋で、食事をするつもりだった

じわり、と視界が滲む
楽しみだった
いつもしかめ面をしている兄さんに
少しでもリフレッシュをして欲しくて
そして

ありがとう、って
ちょっとでいいから、褒められたかった
高校生にもなって、子供っぽいなんて事、分かってる
キャラじゃ無いってことも

でも、でも、悲しい
兄さんが仕事だから、と言ったときに
約束がキャンセルになった事もだけど、なにより
(仕事よりも優先して欲しかった)
なんて、思った事が悲しかった
そのせいで、兄さんを傷付けてしまった事も

「帰ったら、謝ろう」
ちゃんと、向き合って
そして、このプレゼントを渡すんだ
ぎゅっと紙袋の紐を強く握ってから、鏡の中の自分に向き合う
鏡の中の私は真っ直ぐな目をしていた

小さく苦笑してから、トイレを出ようと歩き出す

その時

現実逃避をしようが無いくらいに、はっきり、鮮明に

銃声が鼓膜を震わせた

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作者名:木霊 | 作成日時:2018年9月16日 18時

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