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『お疲れ様、エルレイド』
Aはゆっくりと歩み寄り、エルレイドをモンスターボールへと戻す。
その様子を見ながら少しも動かない自身の主人に対し、メタグロスは首を傾げるような仕草を見せた。
『あー悔しい。
全く、どんどん強くなってるんだもんなぁ』
声をかけても返答はない。
"おーい?聞こえてる?"とダイゴの顔の前で手を振って見せれば、ようやくダイゴの瞳が目の前の姉の姿を映す。
「勝…った?」
目を瞬かせたかと思えば、この状況を理解して途端に嬉しそうな表情を浮かべる。
そして未だフィールドで自身を見つめるメタグロスへと駆け寄り、その横へとしゃがみ込んだ。
ダイゴは別にAに勝ったことがなかったわけではない。
実力は拮抗しており五分五分。Aが勝つこともあればダイゴが勝つこともあり、以前のように引き分けることだってあった。
それでも何だか、今日の勝利は特別嬉しかった。
そして……この勝負は楽しかったと、心の底から思った。
『ポケモン勝負ってさ、トレーナーやポケモンたちの実力があるのは前提として……その時の運もあると思うんだ。
だったら同じ人と勝負したって、毎回同じ結果になるとも限らないよね』
……確かにその通りだと思う。
自分たちの勝負がそうなように、ポケモン勝負にはただの一回だって同じものはない。
実力、戦略、そして時の運。
色々なものが複雑に交わり、その時しかできない勝負が繰り広げられているのだ。
『だから……次は負けない。それで良くない?』
その通りだと言う様に、メタグロスがひと鳴き。
思わず、笑みが溢れた。
そうしてダイゴが立ち上がり、自身の相棒に労いの言葉をかけボールに戻した時……何やら拍手が巻き起こり、二人はハッと目を見開いた。
「ダイゴさーん!」
「いい勝負でしたー!」
「え、嘘、チャンピオン来てるの!?」
「すごくね!」
勝負に熱中していて気付かなかったが、辺りには人がたくさん集まっていた。
それもそのはず。
ここはショッピングモールに併設され、誰でも使用できるよう解放されたバトルコート。
そんな場所でチャンピオンが勝負をしているとなれば、何かのイベントかと人が集まるのは当然のこと。
「姉貴がこんなとこでバトルしようとか言うから」
『あー、せっかく励ましてあげたのにそういうこと言うんだ』
「頼んでないよ」
『うっわー、可愛くない』
こうなったら、逃げるが勝ち!
両手に荷物を抱えてバトルコートから逃げる姉を、ダイゴは慌てて追いかける。
……もうその顔に、迷いはなかった。
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作者名:セレーナ・ラフィーネ | 作成日時:2023年3月15日 22時