“好き”の色【テニプリ】

ピアノに乗せて【鳳長太郎】 ページ34

『＿＿＿すごいね！長太郎くんの演奏、いつも聴き惚れちゃうよ！』

きみは、もういない。

きみを好きだと思ったあの時から、俺はアプローチを始めた。
こうして週に何回か、ピアノの演奏を聴かせて。
だけどそれだけじゃ、きみには振り向いてもらえなかった。


『あのね……私彼氏が出来たから、今までみたいに長太郎くんの演奏、聴けない』
「そっか……じゃあこれが最後の演奏だね」
『うん……曲名は？』

いつも通り、可愛らしい笑顔を見せながら、小首を傾げて尋ねる。

「“想いに乗せて”。俺が作ったんだ」
『え、すごい！聴かせて！』

ひんやりとした鍵盤に触れる。
そこから奏でる音色は、まるで俺の失恋を表しているみたい。
＿＿＿なーんて。実際、きみの事を想って作った曲だから、そうなんだけどね。

***


『やっぱりすごいね！オリジナルの曲でこんなにすごい演奏、初めて聴いた！』
「ありがとう。そう言ってくれて、すごく嬉しいよ」

その時、ピロンと着信音が鳴った。

『……あ』
「……彼氏さんから？」
『うん……演奏中にメールが届いていたみたい』
「行かなきゃだね。でも、最後に言いたい事があるんだ」
『何？』

「……ずっと、Aが好きだったよ」
『！』

きみはびっくりした表情になった。
きっと、気づいていなかったんだろうな。

「俺の負けだよ。全部」

勝ち負けのコートに立ってもいないのに。
俺、バカでしょ？
やっぱり、立っても立っていなくても、俺の負けだな。

「……今までありがとう、幸せになってね！」


涙をうっすら浮かべてでも、最後は笑顔で。

＊解説→←歌姫と魔法【跡部景吾】

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す