You.08 ページ14
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その一言で彼の欲望が降ってくる。
激しく揺さぶられる、心を。
視界が揺れるうちに、みるみる霞んでいってとまらない。違う違う、自分で選んだんだから。
「…泣いても遅いよ」
「…今だけだから、無視して、大丈夫」
一静は忠告してくれたもの。
預けられないくせに、開くなって。
それはつまり、開いたら預けろって、そういうことでしょう?
預けよう。
徹を待っていたい。でも、私が待っていることで、彼が後ろめたさを感じて、自分の心を図りかねているとしたら。
いない方がいい、私など。
だから預けよう。
ちゃんと、私をそのままで預かってくれるような人に。
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「…」
吸った息をぐ、と飲み込んでは吐き出す、それを何度か繰り返して、一静の体はベッドに沈む。
野暮なことは言わないし、聞かない。
それが一静の気遣いだ。
初めてお邪魔する一静のベッドは、私と徹のものとは全く違っていて、木でなく鉄で、茶色でなく黒い。
木のベッドはいい、下からしっかり支えてくれる。
このベッドはギシギシ軋む。私たちが体を動かす度に。まるで私たちの心のように。
朝のシャワーを浴び終えた私たちは、休日ということで今日一日、この家のなかで過ごすことに決めた。正直そとに出掛ける気力も体力も残っていないし、一人家に帰ったら帰ったで、どうしようもなく色々なことを考えてしまいそうで怖いのだ。
隣に彼がいれば、落ち着く。
「朝ごはん、つくるね」
スリッパを履こうとベッドの縁に腰かけると、ぐいと強い力で引かれる体。
「わっ」
目の前に広がるのは、目を閉じて静かな呼吸をしている一静。
どきどきと高鳴る心臓がうるさい。
「…まだ一緒にいて」
「……うん」
背徳感に似たものにさいなまれていた。
別れたのにどこか、私はまだ徹のものだと思っている節があって。
だからこうして一静と関係を深めることに、罪悪感を感じていた。
けれど優しい朝陽と、ふんわりとしたシャンプーの香り、一静の体温で、今私の心はとても落ち着いている。安心してる。
「そういえば、…あれ、一静?」
頭の上にある彼の顔を見上げようとするも、抱き締められていて頭が上がらない。
優しい優しい抱擁。
しばらく黙ったままで、部屋に静寂が訪れる。
互いの息を吐く音、どくどくと脈打つ鼓動。
寝てしまったのだろうか、そうだろうか。
…まあまだ7時過ぎだ、せっかくの休日なのだし、私ももう一度眠ったってバチは当たらないはずだ。
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radio-co.(プロフ) - 励ましのコメントありがとうございます!文庫化なんて畏れ多いです汗 言葉を大事にしすぎて一言一言が重苦しくなるのが欠点でして……。もう少しラフに書けるといいなー書きたいなーと思っています笑 これからも是非応援宜しくお願いします(/\)\(^o^)/ (2017年12月29日 16時) (レス) id: ee8f50fb78 (このIDを非表示/違反報告)
radio-co.(プロフ) - どっどっどうもありがとうございます!(#^.^#) 文章力とストーリーの両方を誉めて頂けるなんて、これほど嬉しいことはありません!あやせさんのこの言葉を励みに更新頑張っていきますので、これからも温かく見守ってくださいね。 (2017年11月29日 17時) (レス) id: ee8f50fb78 (このIDを非表示/違反報告)
あやせ(プロフ) - あっあっあの、好きです(語彙力) 引き込まれるストーリーと綺麗で丁寧な文章表現、本当にすごいなと思いました。これからも応援させていただきます…!! 更新楽しみにしてます〜(*^^*) (2017年11月22日 16時) (レス) id: a236a20ef8 (このIDを非表示/違反報告)
radio-co.(プロフ) - ユラさん» 大変な誉め言葉をありがとうございます!汗 更新が不定期で申し訳ありません。ここから皆の恋愛が動いていきますので、これからもどうぞよろしくお願いしますね。 (2017年10月2日 16時) (レス) id: ee8f50fb78 (このIDを非表示/違反報告)
ユラ(プロフ) - 凄く大人っぽいのに読みやすくて、あっという間に夢中でした!やばいこれ超良作じゃん!とか言って一人で騒いでます笑。及川くん達のこれからがとても気になるので、更新、お願いします!! (2017年9月26日 0時) (レス) id: 9a45404af6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:phobia | 作成日時:2017年2月18日 10時