Toru.06 ページ15
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とても緊張した。
マネージャー初日のAを迎えに行ったとき、心臓が破裂するんじゃないかと思うほどだった。なのに二人で体育館まで歩く、その道のりの上にいればいるほど、ドンドンと胸が叩かれるようで、どこまでこの心臓は上下するのか、どこで限界を迎えていつ止まってしまうのかと気が気じゃなかった。
「髪、伸びた」
迎えに行って久しぶりに顔を会わせた第一声が、これ。
ああそうだ、この子はこんなに無邪気に笑うんだっけと、懐かしくなった。
その後さらりと自己紹介をすませ、一通りマネージャー業の説明を受けた後、落ち着いた様子で仕事を始める彼女には、もう本当に脱帽だった。
俺って人を見る目があるんだかないんだか。
とにかく彼女を選んだことに失敗など無かったわけで、少し安心した。
「飲み物ここに置いておきますー」
大学生なんだから、そんなに甲斐甲斐しく“お世話”みたいなことしなくていいでしょ。
その言葉の通り、彼女は高校のときのマネージャー達のように、一人一人に手渡しでドリンクを渡したりしない。
その代わりにテキパキと仕事をこなし続けているわけだが、それはどこか部員達と距離をおくような姿勢に見えて、ちょっと寂しく感じもする。
休憩時間になると、いつも何人か足りない。
今までもそういうことはあった。
夏暑くて外に涼みに行く者、水をかぶりに行く者。
でも今は冬だ。外に出たって寒いだけ。
だから答えは簡単で、Aを狙っている男たちがいるということ。
足りない奴に気づく度、ハラハラする気持ちを抑えるのが大変だ。
なぜハラハラなんてするのかがわからないのも辛い。
ただ、彼女をそのうちの誰かにかっさらわれるのは嫌だと、子供じみた、理由の不透明な執着だけがそこにある。
「…徹?」
ぽすんと頭の上に柔らかい重さを感じる。
は、と我に返ると不思議そうにこちらをのぞいているAと目があった。
「あ、ご、ごめん」
「大丈夫?」
「うん」
「ちゃんと汗拭かないと、体冷えちゃうよ」
しっかりね、と去ってゆく後ろ姿をぼんやりと眺める。
彼女はあからさまに俺を避けたりしない。みんなと平等に扱うのが一番簡単だろうに、そうもしない。さりげなく、だけどなにかを求めるような態度じゃなく、俺を気にかけてくれる。
それがどんなに大変なことか。
俺だって君を心配してる。
俺のためにそんなに無理をしないで。
…君が俺をひたすらに憎んでくれたら、どんなに…楽なことか知れない。
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radio-co.(プロフ) - 励ましのコメントありがとうございます!文庫化なんて畏れ多いです汗 言葉を大事にしすぎて一言一言が重苦しくなるのが欠点でして……。もう少しラフに書けるといいなー書きたいなーと思っています笑 これからも是非応援宜しくお願いします(/\)\(^o^)/ (2017年12月29日 16時) (レス) id: ee8f50fb78 (このIDを非表示/違反報告)
radio-co.(プロフ) - どっどっどうもありがとうございます!(#^.^#) 文章力とストーリーの両方を誉めて頂けるなんて、これほど嬉しいことはありません!あやせさんのこの言葉を励みに更新頑張っていきますので、これからも温かく見守ってくださいね。 (2017年11月29日 17時) (レス) id: ee8f50fb78 (このIDを非表示/違反報告)
あやせ(プロフ) - あっあっあの、好きです(語彙力) 引き込まれるストーリーと綺麗で丁寧な文章表現、本当にすごいなと思いました。これからも応援させていただきます…!! 更新楽しみにしてます〜(*^^*) (2017年11月22日 16時) (レス) id: a236a20ef8 (このIDを非表示/違反報告)
radio-co.(プロフ) - ユラさん» 大変な誉め言葉をありがとうございます!汗 更新が不定期で申し訳ありません。ここから皆の恋愛が動いていきますので、これからもどうぞよろしくお願いしますね。 (2017年10月2日 16時) (レス) id: ee8f50fb78 (このIDを非表示/違反報告)
ユラ(プロフ) - 凄く大人っぽいのに読みやすくて、あっという間に夢中でした!やばいこれ超良作じゃん!とか言って一人で騒いでます笑。及川くん達のこれからがとても気になるので、更新、お願いします!! (2017年9月26日 0時) (レス) id: 9a45404af6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:phobia | 作成日時:2017年2月18日 10時