唇に滲むブルー 【HQ!!】

Hajime.01 ページ12

.


電話に立った及川を少し睨み付けたあと、はぁと溜め息をこぼす花巻。
なんだなんだ。
今度はぼんやり上の方に目をやり、んーともうーともつかないくぐもった低い声で唸り出した。そのあとまずそうに、眉間にシワを寄せてぐびと、ジョッキを傾ける。そしてまたひとつ溜め息。
なんなんだ。



「…あのね」

「おう」

「なんで及川ってああも罪深いのかね」


なんというべきかと言葉に詰まる。しかし“はーぁ”と自嘲気味に笑うこいつを見て、何も言う必要はないと分かった。
こいつは自分が諦めとか後悔とか、そんなものを抱えていて、そしてそれを引きずってしまっていることを分かっているのではないか。
つくづく手のかからない友人である。
まあ手のかかりまくる輩は一人で十分だ、本当に疲れる。


「でもさー」

そしてここで、メニューを見ながら呟く松川。

「何が正しいとか間違ってるとか、そんなのを“正しく”判断できると思っちゃう方が“間違ってる”よネ」


黒霧かな、飛露喜かな、なんてなんでもないことかのように続けるが、ああそうか、と。俺の脳ミソの固い殻をカツンと、柔らかく割ってしまったような衝撃が残る。

俺たちが“正しい”と思っていること、その基準はなんだ？
社会的常識だろうか、それは、偏見だったり、実は何か大切なものを見落としていたりしはしないだろうか。

及川は、付け上がっていない、と言えばそうなのだろうか。
まだまだ子供なのだと思っていたが、よく言えば、自分達が未熟だということを自覚して、だけどそれでも自分の足で生きていこうと苦しんでいる、のか。


なんだか難しいことをごちゃごちゃ考えるのは、俺の性に合わない。おかげで疲れた。
ちらりと未だ電話口に立つ及川を見やると、花巻にがしりと肩を掴まれた。


「あのさ岩泉、さっきのさ＿＿」


そのあと続けられた言葉に驚きもし、なんだか悲しくなりもした。

…ああやっぱり世界は狭い。
出口が見つかるかも分からない冒険をするには狭すぎる。


だから及川は…本当に厄介で面倒なやつだ。
いいよ冒険したってよ
お前が間違ってるなんて言わねーよ

でも頼むから、世界を平和に保ってくれ。
お前はいつだって人の中心にいることを、ちゃんと自覚してくれ。

「ちゃんと、がんばれよ」

俺に言えるのは、それだけだけど。

.

You.07→←You.06

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す