第４話：揶揄 ページ5
ひょい
「あっ！？」
突然、半端に掛かっていた眼鏡が顔から離れた。掛け直そうとした右手も空を切る。途端に目の前がぼやける。
「えっ、なっ……ちょっと……！」
彼に眼鏡を奪われてしまったのだ。
なんで？いきなり？
咄嗟に彼がいる方向に手を伸ばす。しかしひらりと躱され、またも手が空を切る。
当の本人は何処吹く風で、
「うわ、度強いね。何も見えない。」
なんて、遊んでいるようだ。
「これだけ強かったら、ほとんど今見えてないのかな？」
「見えて、ないです、全然！
早く返してくださいっ、」
目を細めて赤いシルエットに手を伸ばすが避けられる。
しかし狭い部屋の中、追いかけ回すより先に壁に肩から激突する。
どんっ
「ゔっ」
「大丈夫？本当に全く見えないんだね。ふ、」
笑いを含んだ声が聞こえる。
壁を背にした私の正面にいることはわかる。
表情なんてまるっきり見えないけど、私の間抜けな動きを見てくすくすと笑っているようだ。
「ほんとに、何も見えないので……！
お願いですから返してください！」
肩を震わせ、声を張る。
教室の中に声が響いてしまい、少し気まずい。
「おっと、ごめんごめん。そんなつもりじゃなかったんだけど……｣
彼が私の様子を見て慌てたように言う。
「すぐ返すよ。
ーーー………ただ。
もし君が……僕の手に傷を付けてしまったことを、
少しでも悪いと思っているなら。」
彼がカツリ、と一歩私に近付く。
「僕がこれから言うこと……
ーーーー聞いてくれる？｣
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作者名：Mae | 作成日時：2020年10月22日 16時
