第10話:正気 ページ11
正気に戻った。
「ーーーはっ!?えっ!?
なにするんですか!!離してくださいッッ」
さすがに!!!
流され過ぎでは!!!???
彼が驚いている間に、腕をくぐり抜けてさっと教室の広い方へ逃げる。
手探りで眼鏡ゲット、装着!
距離を取らなきゃ!
この人、なんて恐ろしい……!!
「い、言うこと聞くって言っても!
やっていいことと悪いことがありますよ!」
威嚇しながら真っ赤になって憤慨する私。
一瞬ポカンとした顔でそれを見ていた彼は、すぐに笑いだした。
「ふっ、あははは、!」
「何がおかしいんですか!私は本気ですよ!?」
「くくッ……いや、さっきまで完全にそういう雰囲気に流されてたのに、急に覚醒するから……ッはぁ、可笑しい、」
腹を抱えて笑っている。
この人、こんな風に笑うことあるんだ。
こんな表情、見たことない。
人の上に立つ時の隙のない高潔な彼と、
私に突然牙を剥いて迫ってきた彼と、
中学生らしく笑い転げる目の前の彼。
どれが素で本物なのか、分からない。
……多重人格?
「誰のせいだと……!、……もう!」
床にちらばったままだった資料をようやく片付けると、彼も手伝ってくれる。
距離を保ち警戒する私を見て、彼はまた笑っているようだった。
「これで最後かな。
……さて、帰宅部の水織 Aさん。」
ととん、と紙束の端を揃えると、彼は空気を変えるように尋ねかけてきた。
「今日このあと、予定、無いよね?」
しまった。
さっきは予定が無いからコピーの用事も資料探しも手伝ったんだった。
仕方なしに「はい」と答える。
「では帰宅部である理由は?家の事情や、習い事?」
「そういう訳ではないですが……、校則は部活強制でもないですし、」
「そう。理由があれば別に入ってもいい訳だ」
……雲行きが怪しい。
嫌な予感がする。
だって、この人何か企んでる顔してる。
「そこでだが、ちょうど我がバスケ部のマネージャーを探していてね。
今一軍には一人だけ居るんだが、その彼女が優秀過ぎて、増やそうにもどうもバランスが悪い。
あの部をマネジメントするにはちょっとしたセンスと"ここ"が必要でね、」
とんとん、と側頭を指差す。
「君は揉め事や問題も起こさなそうだし、頭もいい。彼女とも部員とも上手くやれるだろう。これは男の勘、だけど。」
女の勘、ならぬ。
なるほど。ということはつまり、
「単刀直入に言おう。
一軍のマネージャーになれ」
141人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:Mae | 作成日時:2020年10月22日 16時