□朝 ページ49
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「…晴れた」
1人で朝ごはんを食べてスーツに着替えてメイクをして、カーテンを開けて空を見上げると、昨日の大荒れが嘘のようにからっと晴れている。
「……眩しいんだけど」
ぼそりと呟く声がして、むくりと小さく動いた一松くんになんとなく気まずさをかみしめながら「おはよ」と言うと、「……もう仕事」と呆れたように目をこすった。
「うん、朝ごはんあそこに置いてるから食べてね」
「……食欲ない」
「朝ごはん食べないと元気でないよー?」
「……うるさい」
寝起きだからかいつにも増して機嫌の悪い一松くんに苦笑いしながら、枕元にしゃがみ込んで猫を抱き上げる。
「おはよー!いってくるにゃー」
「……パンツ、見えてる」
しゃがんだ位置的に、スーツのスカートから一松くんにパンツが丸見えで、またやってしまったとすごい速さで隠すように立ち上がった。
「じゃ、じゃあいってくるね、一松くん」
「……いってらっしゃい」
「…鍵置いとくから、帰るときはポストにでも入れといてね」
「いってきます」とヒールを履いて出ると、一松くんはまたごそごそと布団に潜っていった。
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「え、井矢見さんお休みですか?」
職場のおばさんに尋ねると、「そうみたいよ」と苦笑いで井矢見さんのデスクを見た。
せっかく昨日借りた傘、返そうと思って持ってきたのに。……折れかかってるけど。
「あの人風邪とか引くんですね」
「怒られるわよ、平野さん」
相変わらず礼儀のなってない私の肩を軽く叩くと、おばさんは煎餅を齧りながら噂話を始めた。
「なんでもね?昨日、車のタイヤがパンクしちゃったらしくって」
「え?」
「あの台風の中、家まで車押して帰ったんだって」
「………それはご愁傷様です………」
「シェー!」とか言いながら驚いてる井矢見さんを想像しながら、失礼にも途中で車降りてよかったとホッとしてしまう私はやっぱり礼儀知らずだと思う。
「あの雨の中そんなことになれば、そりゃ風邪もひくわ」
「………ですねぇ」
私も貰った煎餅を齧りつつ、井矢見さんのデスクをぼーっと眺めた。
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