□足りない ページ43
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湯船に浸かると、冷えた身体にあったかさがじんわり広がる。
ガタガタと風で家が揺れる音がして少し怖いけど、家で1人でシャワー浴びるより、おそ松さん家でお風呂を借りた方がいくらか安心だ。
「ふぅ……」
「…あのぉーAさん」
「あ、はい」
風呂の扉一枚挟んだ向こうからチョロ松さんの声がして返事をすると、「着替え、トド松のなんですけど、ここに置いときますね」と声をかけくれる。
「ありがとうございます、すみません」
「Aーっ！背中流そうか！？」
「いりません」
「えー遠慮すんなよ」
「おそ松兄さん行くよ！！」
不満そうな声を上げるおそ松さんを、チョロ松さんが殴った音がして、脱衣所の扉が閉まる音がした。
はやく上がらないと十四松くん風邪ひいちゃうだろうしと、ばばばっと身体を洗ってお風呂を上がる。
下着とかは濡れてるけどしょうがないなとさっきのものをつけて、トド松くんのパーカーを着て、髪を拭きながらリビングに行くと、チョロ松さん以外の兄弟たちが何故かロープでぐるぐる巻きにされていた。
「……えーっと、なにが……」
「あ！Aさん！あったまりましたか？」
「おかげさまで、ありがとうございます」
謎の状況に苦笑いする私に「この飢えた野獣どもは僕が押さえておきましたので」と真顔でチョロ松さんが言った。
苦笑いしながら苦しそうなトド松くんのロープを解いてあげる。
「……あれ、1人足りなくないですか？……一松くん」
「あー……」
私が数えながら言うと、5人とも微妙な顔をして「実は…」と話し始める。
「一松兄さん、今朝から帰ってきてないんだよねぇ…」
「……今朝って…私が通勤前に会った時から？」
「実は、一松の連れてた猫が俺たちの大事なものをことごとく荒らしててさ、家に入れんなーっ！って怒っちゃって」
おそ松さんとトド松くんは携帯に尿意をもよおされ、
カラ松さんは自慢の革ジャンをひっかかれ、
チョロ松さんはニャーちゃんの写真集を破られたらしい。
十四松くんはなにもなかったらしいから、素振りしながら一松くんを探してたとかなんとか。
「……え、この嵐の中外歩いてるんですか」
「いやー流石にどっかで雨宿りしてるんじゃない？」
おそ松さんは普通の顔で言ってのけるけれど、私は今朝見た一松くんのことがどうしても心配で、「私探してきます」と急いで家を出た。
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