続 ページ13
信濃が退屈そうに足を前後にばたつかせていると、
「なくすもの、なくされるもの」
これ知ってるか？と男は声色を変え信濃に問い掛けてきた。
「知ってはいるけど…」
「なんでもいい。情報をくれよ」
「……たいしょー、言っても良い？」
首を傾げながら主を見れば、こくん、と頷き承諾してくれた。
男は「なんで刀剣ってのはいちいち主に確認を取るのかねえ」と眉を顰める。
「なくすものはそのままだよ。なくす者。なくす人って意味。なくされるものは、その人の所有物のことだね。可哀想だけど、なくされてしまう物」
だが信濃の知っている話はこれだけではない。
なくすもの、なくされるものときたら、次にくるものがあるのだ。
「あとね、うーん…あと一つあるんだけど」
「焦らすなよ、意地が悪い。はやく教えてくれ」
話題が話題だけあって男の食い付きは異常な程だ。
目をギラギラさせ周りの雑踏がまるで聞こえていないかのようで、信濃の言葉をまだかまだかと待っている。
そして顔を寄せてきたため信濃が戸惑って目を伏せていると、主が助け舟を出す。
二人の顔の間に遮るように手を出し「僕が答えてあげる」と凪のような声で言い放った。
「最後はね、おわるもの」
ぷつん。ぷつん。ぷつん。
瞬間、何かが切れるような音が繰り返し聞こえてきた。
耳を塞いでもその音は鳴り止まない。
「なんだ……この音は」
「おわるものは、なくす者になくされた物たちの怒りの矛先。おわるものは人であり場所でもある………その理からは逃れられない」
理不尽だとしても抗えない。即物的だと思うならそれは人間の理屈であると、この場の雰囲気に似つかわしくない柔らかい口調で主は言った。
「うそ、だろ……」
「俺もさ、もし大将が俺を失くしてしまったとしても、恨まないよ。ただ……相手を変えるだけ」
「そんな…巫山戯るな！……なにか、なにか対策とかないのか！なんでもいいんだ！！」
主の肩を荒々しく揺さぶる。その瞳には涙が浮かび、主がゆらゆらと歪んで映っていた。
その様子を信濃はただじっと男を見詰める。
可哀想に、と思う。
彼にははっきりと見えるくらい濃く深い所有の印がこびりついていたのだった。
ぷつん。ぷつん、ぷつん。
「左様なら」
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作者名：ナナリナ | 作成日時：2019年5月10日 18時
