「青色吐息＊にっかり」 ページ14
「おやおや、随分廃れているね」
ひっそりと立っていた[骨董屋]の看板は、草や苔に覆い隠されていて殆ど見えなかった。
青江がその汚れを手で払う。
「わあ、ほんとうだ」と主がのんびりとした口調で言った。
「この店屋の主人もいないようだね。無人だけど………ああ、でも、沢山いるみたいだよ」
青江が指をさしながらその先を見詰めた。
木々の隙間から太陽の陽が差し込んで、斑模様が手や腕に浮かび上がっている。
風が吹く度に葉が靡き、葉の擦れ合う音がとても心地よい。
それなのに、
あの店屋の周りを囲んでいる榊の木はこゆるぎもしない。
ずっとそこで時が止まっているかのように静かに佇んでいた。
「入ってみるかい？」と試すように青江か微笑む。
「僕、骨董品を見るのが大好きなんだ」
「へえ…それは初耳だねえ」
「青江くんとこういう所に来るのが夢だったんだよ」
叶って良かった
そう言って主は目を細めて笑った。
さあっと優しい風が頬を掠め、青江の右目に覆い被さる前髪がゆらりと揺れる。
僕もだよ、と言う声が少し震えた。
「んー、でも、ほんとうに古い家だね。僕なんかが立ち入っていいのかな」
「これも巡り会えた縁だから、問題ないと思うよ」
「じゃあ大丈夫だね」
「おやおや……君は僕を過信しすぎてやしないかい？なんの根拠もなかったらどうするのかな」
「信を置いているから」
だから大丈夫だと主は青江に笑いかける。いつも見ているようでいてまた別の、優しい穏やかな笑顔だった。
根拠があるかも分からない言葉に根拠のない返答をする。
つくづく君らしい。青江も同じように笑ってみせた。
「これが入口かな」
苦戦するかと思えば意外にもすんなりと引き戸は動いた。しかし、その度に金切り声のような音を立てるため、少々耳が痛んだ。
ようやく開いた店屋の中は殺風景でいかにも廃墟のような寂しさがあるものの、その奥には豪華な装飾を施された扉があった。
まるで他者を受け付けまいとするように南京錠が幾つも付けられている。
「鍵は…………、きっともう何処にも無いだろうねえ」
ならば斬ってしまいましょう
何処からか声がしたと同時に――ごとん――と鈍い音を立てて南京錠が床に転がっていた。
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作者名：ナナリナ | 作成日時：2019年5月10日 18時
