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二十六輪 ページ27

「ここなのだよ」


連れてこられたのは小さな駅前にある小さなお店


薄い赤い看板が印象的な店だ


こじんまりとしていてどこか懐かしい雰囲気を醸し出している


「ここ?」


緑間は私の言葉に反応せず、店の中に入っていく


彼に慌ててついていくとたどり着いた飲料コーナー


(なるほどね…)


山積みになっているお汁粉を見て、私はそう思った


「で、これを私がお礼として奢ればいいのね?」


確かめるように問いかければ緑間は小さく頷いた


私は呆れたように笑ってお汁粉の缶を二つとった


どうせなら飲んでみようと思って


「はい」


会計を済ませ、店の外で待つ緑間にお汁粉の缶を渡す


彼は小さく礼を言って缶を開けた


私も彼に倣って缶を開け、中身を飲んでみる


「ん、意外とおいしい…」


感嘆したように声を上げると緑間は小さく微笑んだ


普段の彼からは想像できない微笑みに一瞬頭の中がショートする


(緑間ってこんな風に微笑むんだ…)


心臓がバクバクと鳴って、私はそれを打ち消すかのように一気にお汁粉を飲み干した


「…明後日だね、合唱コンクール」


なんとなく気まずい空気をどうにかしようと思って、とりあえず当たり障りのない話を振る


「そうだな」


「優勝できると思う?」


「人事を尽くせば、結果はおのずとついてくると思うが」


優勝できると断言しないことに内心、少し驚いた


「ねぇ、一つ聞いても良い?」


「何だ」


「どうして、自由曲の伴奏が弾けるの?」


「……。」


緑間は答えようとしない


ただ黙ってお汁粉を飲んでいる


「ちょっと、聞いてる?」


「…聞いてるのだよ」


「じゃあ答えてよ」


彼は小さくため息をついた後、こちらを見ながら言った


「……お前が突き指した時、あの指では伴奏はおろか、ピアノを弾くことは無理だろうと思ったのだよ」


お前は弾けると言っていたがな、そう言って小さく私を睨んだ


「…だって心配かけたくなかったし、本番まで時間がなかったじゃない」


言い訳を並べる私を一瞥すると、緑間は言葉を続けた


「本当に何事もなく伴奏をできるならそれに越したことはない。でも、もし伴奏が弾けなかったら?うちのクラスにはあの難易度の高い伴奏をすぐに弾ける奴などいない。ならば俺がやるしかない。そう思っただけなのだよ」


「そうだったんだ」


「まあ、俺の思った通りになったわけだが」


その言葉に言葉を詰まらせる


でもどこか優しい眼差しに心が温かくなった

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作者名:ルナ | 作成日時:2014年6月28日 16時

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