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手離さない ページ29

『…A』


…軋む音をたてた床を直した方がいいのではないかと考えながら数歩足を進めていたとき、背中に投げ掛けられた銀時の声。名前を呼ばれて、私は反射的に足を止めて『ん?』と振り向き銀時に視線を向けた。それに合わせて短くなった髪が揺れて、私の顎あたりをくすぐった。まだこの感覚には慣れないけれど、あと数日もすれば慣れてどうにも思わなくなるだろう。そんなことをなんとなく思う。先程話をしていたときは玄関とはいえまだ室内にいた銀時は、一歩足を踏み出したのか外に出ていた。見据えた先に立っている銀時は、なんだか思い詰めたような顔をしていた。何かを、言いたげな顔をしていた。私を見ていたその目が、不自然に逸らされる。

なんだか、銀時らしくない表情だ。長いこと銀時と一緒に過ごしてきたから、表情を見て何を考えているのか手に取るように分かったりするけれど、今のソイツの顔は、あまり見覚えのないものだった。銀時は、口から生まれてきたかのような奴だ。言いたいことがあればハッキリと言う。けれど今は、言いたいことがあるのにそれを口にすることを躊躇っているように見える。

躊躇うくらいなら口を開こうとしない。そんな傾向がある銀時には似つかわしくない表情だ。けれどきっと、躊躇っていても、言いたいことがあるのだろう。私は銀時からの言葉を待つ。


『…ッ、』


…銀時は、中々続きを口にしようとはしない。逸らされた目をまたこちらに向けては、切実な目をして私を見つめる。何かを言おうと口を開きかけるけれど、結局は何も言わないままにそれを閉じてしまう。

私は急かすこともなく、黙ったまま銀時を見据える。何か言いたいことがあるなら、漏らさずに聞きたい。けれど、言いたくないなら聞かない。銀時が何かを口にするまで、待っていようと思う。


すると、銀時は何かを諦めたように。いや、諦めたというよりは、なんて言ったらいいんだろう。分からないけれど、薄く笑みを浮かべては首を横に振った。銀時の表情を見たら何を考えているか分かると思っておきながら、今回は分からなかった。疑問を言葉にするよりも先に、銀時は漸く口を開く。


『…もう、手離そうとすんなよ』


そう言いながら、私の髪につけられているリボンを示すように。自身のこめかみをつついた。それは、私の居場所を示しているのだということにも、その言葉は、きっと銀時が本当に言いたかった言葉ではないことも、私は分かっていた。

けれど、それ以上何も言うことなく、私は笑って頷いた。


『…ありがと、銀時』


手離さないよ、と。そう言った。

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設定タグ:銀魂 , 土方十四郎 , 真選組、攘夷   
作品ジャンル:アニメ
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Karin(プロフ) - この作品が好きすぎてもう4回ぐらい読み返してます。とっても面白くて、感動的で、大好きな作品です!銀魂のedにも使われていた桜音という曲を聴いた時に、この作品の高杉と主人公のことみたいだなぁと感じました。高杉と恋仲だった頃の話も見てみたくなりました笑 (8月4日 19時) (レス) id: 9e7f4b97d1 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ミウラさん» ありがとうございます!こんなご時世ですので暇をもて余すこともあるかと思いますが、私の作品なんかで良ければ読んでやってください!! (2020年5月9日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - ピピコさん» 嬉しいです!楽しみに待ってます(o^^o)その間ピピコさんの小説何度も読み返しますね笑 (2020年5月9日 21時) (レス) id: 3103cb23ea (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ミウラさん» ミウラさん!ありがとうございます…!!最後まで読んでくださり感謝です…!!高杉さんが出てくるシーンは本当に難しかったです…自分でも書いててしんどかった…!!高杉さんのお話もそのうち書きたいなぁと思っていますのでお楽しみに(o^−^o) (2020年5月9日 19時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - 一気に全巻読めちゃうくらい面白かったです!晋助様のシーンがしんどすぎてずっと泣いてました…笑次は晋助様落ちの小説も書いて欲しいです! (2020年5月9日 8時) (レス) id: 3103cb23ea (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/  
作成日時:2018年6月14日 19時

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