伝えようとした事実 ページ30
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銀時があの時、私に何を伝えようとしていたのか。何を伝えたくてあんなにも顔を歪ませていたのか、それは、いくら考えてみても分からなかった。手離さない。色々なことを諦めない。そんなことを銀時に告げてお互いに笑みを浮かべ合ってから、私は今度こそ万事屋を後にして帰路についた。昨日、江戸のとある漁港で乱闘があったことなんて何も知らない江戸の街は今日も今日とて賑わっていて、平和だった。綺麗に整えられた髪と黄色いリボンを、まだ冷たさの残る春の風に揺らしながらに歩を進めては、銀時のことを考えていたけれど、一向に答えは見つからなかった。見つかるとも思っていなかったけれど。いくら幼馴染とはいえ、本当に相手の心理を覗き込める訳ではないので、仕方のないことだ。
けれど、銀時が私に何かしらを伝えようとした。その事実は覚えていようと思う。それは言ってみれば、言葉にこそならなかったけれど、銀時は私に伝えたのだ。銀時には、私に言いたい事柄があるのだということを。伝えたいことがあるということを私に伝えたのだ。だから、そのうち銀時が話してくれる時のことを、ゆっくり待っていようと思う。急かす理由なんて何もないのだから。
…と、そんなことがあったのだということを、私は土方さんに簡単にざっくりと説明した。別に彼に伝えるべきではないことは割愛して。
「そんなわけで、私は近いうちにプリンを買って万事屋に顔を見せることにします」
「そうか……つか、いつの間に帰ってきてたんだよ。退院してからお前の顔見た覚えがねェんだが」
土方さんは疑問という言葉を表情で表すような顔を私に言いたい向けてそう問い掛けた。私は「あー、」と呟きながらにいたずらっぽく笑って見せた。
「だってほら、髪ちゃんとしたの見せて『むおっ』ってさせたいじゃないですか。だからわざわざ土方さんに屯所で出会さないように行動してました」
「『むおっ』とはならねェがな」
「なってくださいよつまんないな」
レディーのそういった変化にはしっかりと反応してあげるべきだ。そんなんだから土方さんはモテないのだ。気付いてあげるなんて当然のこと。気付いた上で上手に褒めてあげれば、案外喜ぶものなのだから。
優しい私は土方さんにチャンスをあげることにした。
「どうです?短い髪も似合うでしょう」
そう言いながら肩につくくらいの長さになった髪の毛先を摘まんで見せびらかせば、彼は横目で私を見て、ふぅ、とタバコの煙を吐き出してから「…そうだな」と。
「まぁ、…悪くねェんじゃねェか」
なんとも彼らしい褒め言葉だった。
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Karin(プロフ) - この作品が好きすぎてもう4回ぐらい読み返してます。とっても面白くて、感動的で、大好きな作品です!銀魂のedにも使われていた桜音という曲を聴いた時に、この作品の高杉と主人公のことみたいだなぁと感じました。高杉と恋仲だった頃の話も見てみたくなりました笑 (8月4日 19時) (レス) id: 9e7f4b97d1 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ミウラさん» ありがとうございます!こんなご時世ですので暇をもて余すこともあるかと思いますが、私の作品なんかで良ければ読んでやってください!! (2020年5月9日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - ピピコさん» 嬉しいです!楽しみに待ってます(o^^o)その間ピピコさんの小説何度も読み返しますね笑 (2020年5月9日 21時) (レス) id: 3103cb23ea (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ミウラさん» ミウラさん!ありがとうございます…!!最後まで読んでくださり感謝です…!!高杉さんが出てくるシーンは本当に難しかったです…自分でも書いててしんどかった…!!高杉さんのお話もそのうち書きたいなぁと思っていますのでお楽しみに(o^−^o) (2020年5月9日 19時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - 一気に全巻読めちゃうくらい面白かったです!晋助様のシーンがしんどすぎてずっと泣いてました…笑次は晋助様落ちの小説も書いて欲しいです! (2020年5月9日 8時) (レス) id: 3103cb23ea (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2018年6月14日 19時