TAKE‐ 土砂降り ページ9
「第二部隊が帰還したぞ」
雨が雨戸に叩きつけられる音が激しくなった時、山姥切国広が簡潔に言った。審神者は戦況を監視するモニターからバッと顔を上げた。酷い顔色をしていた。
なおも山姥切国広は言う。
「あいつらは戦闘中に検非違使に遭遇。だが備えが無かった割に、損害は最小限で済んだ」
審神者は何も言わずにぼろ布に隠れた彼の顔を見つめていた。青緑の瞳が鋭い感情を持って審神者を捉えた。
「負傷者が手入れ部屋に先ほど運び込まれた。内重傷者は四名、中傷者は二名だ」
山姥切国広がそういうと、審神者は彼の横を滑るように走り抜け、襖を開けて、歩調も荒く手入れ部屋へと急いだ。
手入れ部屋の前には、惨状が広がっていた。
立ち込める血の臭い、断続的に聞こえるうめき声。そして血まみれで横たえられた重傷者たちと、痛みに顔を歪ませながらも彼らに呼びかける残りの隊員達。
阿鼻叫喚の地獄絵図が、そこには在ったのだ。
腕の無い者、胴を袈裟懸けに斬られた者。内蔵が腹部からはみ出ている者も中にはいた。
審神者の目は真っ赤な血に釘付けになり、縫われたように身動きがとれなくなった。
「主！何ぼんやりしてんの！早く、重傷者を手入れ部屋に」
半ば叫ぶように言った中傷の加州清光が審神者を叱咤する。彼もまた、誰のものとも分からぬ血を被り、紅く染まっていた。
審神者は彼の声でハッと我に返り、必死に平静を装ったが、返事に時間がかかった。
「分かった」
喉奥から審神者が絞り出せたのは、蚊の鳴くような声だけだった。
非番の刀剣達が手入れ部屋に負傷者を運び入れる中、審神者は手伝い札を六つ手にして手入れ部屋の式神に手渡そうとした。
「僕はいいよ」
一瞬、呻き声とも聞こえる苦し気な声がした。審神者は静かに声の主を見た。
にっかり青江だった。
乱れた前髪から赤い右眼が審神者を見つめていたが、視線は定まらずにいた。
「そうか」
審神者は残りの重傷者のいる手入れ部屋の式神に手伝い札を渡そうと踵を返した。
手伝い札を使ったためか、にっかり青江以外の重傷者はすぐに回復して廊下に出てきた。
審神者は、あの場で唯一汚れていない衣装で立っていた。そう、何もできなかった。
その中にいた歌仙兼定は、廊下の血だまりに吸い付けられるようにしてただ目を向けている審神者に言った。
「あまり気にし過ぎない方がいい」
歌仙兼定の背中が見えなくなったことを確認した審神者は、ゆっくり立ち上がって自室に戻っていった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 42人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「刀剣乱舞」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
いなほん(プロフ) - 最゛高゛で゛す゛……!!!!素敵なにっかりさんをどうもありがとうございました！ (2016年12月4日 17時) (
レス) id: eb5ee429dc (このIDを非表示/違反報告)
新鮮な鉛筆(２B)(プロフ) - 拳銃さん» すみません、御指摘ありがとうございます。次のお話で、書き方を変えてみます…。 (2016年9月16日 21時) (レス) id: 873a9a633f (このIDを非表示/違反報告)
拳銃(プロフ) - もう少し間を開けた方が読みやすくなりますよー。はっきり言ってこれ読みにくいですね。二、三行で良いので間隔取ってくださいね(´-ω-`) (2016年9月15日 23時) (レス) id: d214872701 (このIDを非表示/違反報告)
ルサルカ(プロフ) - 新鮮な鉛筆(２B)さん» ありがとうございました！電車の中なのにニヤケちゃいました！www更新のんびり待ってるのでのんびり頑張ってくださーい！応援してますw (2016年9月9日 19時) (レス) id: 2218d295b6 (このIDを非表示/違反報告)
新鮮な鉛筆(２B)(プロフ) - ルサルカさん» 「待つ」ですか、リクエストありがとうございます！また時間が開いたら書かせていただきますね。 (2016年9月4日 8時) (レス) id: 451b47dddc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：新鮮な鉛筆(２B) | 作成日時：2016年8月10日 13時
