60話 ページ11
※過去回想
貴方サイド
一息ついた栖慈先輩が振り返り僕と目が合うと、片眉を上げる。
「なんだ、来てたのか。早いな?」
……僕に対して早いと言う先輩っていつから来てるんだろ。
僕が首を傾げたからか、栖慈先輩は一瞬不思議そうにしたけど直ぐにああ。と呟く。
「俺ら三年は大体午前中に授業が終わるから、午後は部室や体育館、家とかで練習してんの」
……は。じゃあこの人毎日何時間も練習してるの?
「それくらいやんないと勝てないから」
……勝つ?誰に?
くすっと悪戯に笑う栖慈先輩は冷たい印象が消えて急にドキッとする。
「そいつは日々樹渉って言うんだけどさ、彼奴の演技を見た時は凄く感動した。こんな破茶滅茶な演技を出来る奴が居るのかって。日々樹の演技はほぼアドリブみたいなもんで、俺はアドリブ苦手だから憧れたし、女役を出来るってのも尊敬してる。俺の目標で、超えたい役者」
キラキラと表情を輝かせながら話す先輩を見て、ああ、本当にその役者が好きなんだと思った。
「だから何時も一生懸命なんですね」
すると栖慈先輩は目を細め長いこと見つめて来た。
な、なにか気に触る事でも言っただろうか。
ツカツカと目の前まで歩いて来た先輩から遠ざかろうと咄嗟に後退る。
けれどそれを予知していたかの様に腕を掴まれ顔を覗き込まれる。
「望月、お前……ちゃんと寝てる?」
先輩の突然の言葉に思考が停止する。ゆっくりと呑み込んでコクコクと頷く。
「本当?顔色悪いみたいだけど」
大丈夫だと言うと栖慈先輩は手を離してくれた。
「慣れない事して無理してる?今なら誰も居ないし愚痴とか聞けるけど」
ブンブンと首を横に振ると栖慈先輩は眉を下げそっか。と言う。
悲しげな表情になっている事に気付いて焦る。
口を開きかけた時、ばんっ!と勢い良く体育館の扉が開かれる。
大きな音にビックリして肩を震わせると栖慈先輩が入ってきた人間を睨み付ける。
「雫、もう少し静かに扉を開けろ。ビックリするだろ」
怒られた滴依先輩は項垂れつつも駆け寄って来た。
「ごめんごめん!それより栖慈に相談したい事があるんだけど!」
「ん、何?」
滴依先輩の真剣な表情に栖慈先輩は無表情で訊く。
「僕ね、告白されたの!どうすればいいかな!?」
「……は?普通に断れば良いじゃん」
眉を顰めながら言う栖慈先輩。あれ、僕ここに居て良いの?
「確かにそうだけど、その告白して来た人がちょっと……」
面倒くさいタイプの人なのかな。
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