検索窓
今日:3 hit、昨日:13 hit、合計:16,696 hit

nostalgia ページ12

───
──


それは酷く不鮮明。曖昧で、手が届きそうで届かないもどかしさに似た何かがオレに降りかかる。

随分と刀疵の増えた廊下。乾ききった赤黒い物の上から又、塗り替えられたかの様な赫がべっとりと滴り落ちる様を眺めていた。

緋く点々と、襖に散る血潮。
銀の欠片は細かく砕かれ、まるで侵入者を拒む撒菱の様だ。尤も、それも役目を果たす事は無いのだが。

まるで生き地獄。
だがそれを見ても大して動揺はしなかった。

何故か、と問われても理由は解りかねる。
ただ言える事は、そうだ。
こうなる事が何処か分かっていたからだろうか。

とは言え勿論気分の良い物ではない。誰の物かも解らない、眼前にぶち撒けられた脳漿と色褪せた赫色の染みが妙に色鮮やかに脳裏に刻み込まれた。

なんだか気味が悪い。鼻腔を擽るのは血の匂いばかりで、濃厚な死の匂いがガンガンとオレの脳を叩いてくる。

縁側から吹き込む風は冷たく、肌を刺す様な冷たさが夢と言うには出来過ぎている。視界の端を散らつく白い結晶が、まだ温かい赫を湛える池へと堕ち一瞬きの間に溶かし尽くした。

最近になりようやく見慣れてきた場所の酷く様変わりした様子に動揺を隠せないでいる。
どうなってんだ、と視線を中空に彷徨わせていると不意に恐怖と動揺が同時に襲い掛かってきた。

「大丈夫、落ち着け。恐怖に呑まれるな」

声に出して自分に言い聞かせ、ぐるぐると脳内を廻る思考を取り払いようやく落ち着きを取り戻した。
怖い。恐ろしい。根拠も何もないのにただただそればかりを思う。

足元に散らばった銀の破片を踏まない様、慎重に廊下を歩いていればふと突き刺さる様な視線に気が付いた。
誰か居るとは思えない。この惨劇、この惨状。まだ動ける存在すらあるかすら疑問だ。

そちらへ視線を向ければとある襖が目に入る。確か審神者の部屋だ。その前には他より多い破片が散りばめられている。ここで激戦があったとそれらが物語っていた。

思わず襖へ手を伸ばす。
この先。この先にきっと。オレが知りたかったものがある。真実がある。
見たい。見たくない。矛盾する思考のせいで躊躇っていれば、冷えた空気を切り裂く咆哮が響いた。

言葉ですらない。嗚咽ですらない。獣の様な咆哮だった。
世界に対する怨嗟と、自らに向けた憎悪が入り混じった叫び声だった。

小さな骸に縋り付き子供の様に泣き叫ぶ()の姿を見た途端、胸が張り裂けそうな気分に襲われる。

nostalgia.
これは追憶の物語。

第漆話→←終夢



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (10 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
14人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:氷空 | 作成日時:2018年11月3日 21時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。