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終夢 ページ11

悪夢から逃れるように意識を覚醒させる。
此処は何処だという言葉さえ虚空の彼方へ消えていった。其処は春畝の知る何処とも違う場所。

何処(まで)も白い空間。壁も天井も無い。何処迄も高く何処迄も広い。

だが無機質な白さではない。実態の無い雲の中に居るかの様な感覚だ。

「……、眼は醒めましたか?」

不意に背後から言の葉が投げ掛けられる。女人の様な声音。反射的に春畝が振り向けば、尚更驚愕で眼を見張る事となった。

白い和装に身を包んだ女性───否、違う。
あれは刀剣男士(付喪神)だ。
佩かれた太刀でそう確信する。

「───いいえ、「眼が醒めた」という表現は可笑しかったですね。先ずは謝礼を、春畝兼定。こうして貴方の「夢」へ干渉したこと、謝罪します」
「……アンタ、一体……!?」
「名乗る銘はもうありません。とうの昔に、此の身と共に折られました。今は最早(もはや)、実態の無い霊の様な物に過ぎません」

眼前の男士(おとこ)はそう言うと寂しげに眼を伏せた。朝焼けを湛える瞳が見据えるのは此処では無い何処か遠い場所の様な気がして春畝は身動ぎする。

「此れは懺悔。数多の未来を踏みにじった罪。
此れは贖罪。数多の未来を狂わせた愚行。
赦せ、とは言いません。赦されてはなりません。
しからば全ての罪を背負いて、誰の記憶に残らぬ儘逝きましょう」

歌う様に、誓う様に男士(おとこ)は言葉を吐き出す。彼の云う罪を嚙み締める様に、悔いる様に。

「夢とは記憶の整理です。其ならばわたくしの領分。春畝兼定、貴方に魅せましょう。貴方さえも知らぬ貴方の記憶を。貴方が知らねばならない記憶の断片を。見届けなさい。そして───わたくしのことは忘れなさい」

真っ直ぐに此方を見据え、語る。
彼が中空へ手を差し出せば、其の掌の上へ亀裂が走った。空が裂けた、と言った表現が正しいだろうか。

刹那、亀裂から色が濁流の様に押し寄せる。色の無い世界を彩る様に、次々と色が押し寄せる。
対して彼の身体からは色が喪われていった。だんだんと、色と共に存在を失くしていく。

「此れを以って、終夢(さいご)にしましょう。……夢魔の最期と致しましょう。
あゝ……叶うことならば、おまえ(・・・)に謝りたかった───」

揺らぐ。最早色も無くし、透けてしまった彼の存在が揺らぎ、消える。
彼は本霊に還る事すら叶わないのだろう。形無くす其の瞬間まで虚空を見つめ、ぼろぼろと大粒の涙を流していた。

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作者名:氷空 | 作成日時:2018年11月3日 21時

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