ギリギリ事無きを得たらしい。 ページ6
「Aさん」
気付けば美丈夫さんが私の傍らにいて、私の頬をそっと撫でる。頬を撫でられてしまったなんて戸惑いも薄く、私は縋るように彼に目を向けた。
彼は柔らかに微笑み、私の額にキスを、ひとつ。
「貴方は、もう十分に頑張りました、よ。」
彼のその優しい言葉に瞬きをひとつ。それから、鼻の奥がつんと熱くなって、目に涙が込み上げてくるのが分かった。
「……私、頑張れてた、かなあ」
「ええ。俺達が、貴方の心配をしちまうくらいに。」
「何とか出来ないかって、私色々考えたりしてみたの。」
「ええ」
「でも、私…何も出来なかった…」
ぽろぽろと涙が零れて止まらない。美丈夫さんの優しくて細くて柔い手が、私の目元を拭ってくれる。
何とか、したかった。
「あの会社を何とかするのは、貴方の義務ではありません。貴方が守るべきはあの会社ではなく、貴方自身ですよ」
私の傍らに来ていた鬼灯さんは、彼は彼で私の頭を撫でてくれる。
二人して私に対して優しくて、どうしてそんなに優しいんだって私には分からなかったけど、でも、今は、私は自分自身のことで一杯一杯だった。
「うえっ、く、も、やだ、もう頑張るの、やだぁあ」
「ええ。もう、頑張らなくてもいいんですよ。」
「……これからは、私達が貴方を守ります。」
今はただ只管に、休んでいてください。
子供みたいに情けなく泣き喚いて、私は美丈夫さんにぎゅうとしがみつく。彼はそんな私を押し退けることもせずに、そっと私を抱き寄せて、背中を叩いてくれた。
いい歳して情けないとかそんな大人の体裁なんてぐずぐずに溶けてぐちゃぐちゃになって、今はただ、私を甘やかしてくれる二人に甘えていたかった。
#
泣いて泣いて泣き疲れた彼女は、そのまま薬売りさんの腕の中で子供のように眠ってしまっている。細身の彼も一人の男で、易々と彼女を抱き上げて再びソファに寝かせてやっていた。
彼女の独白を脳内で反復し、その内容と彼女の想いにため息を吐き出す。
「…間に合って良かった」
「ええ、本当に。」
地獄の補佐官の私と薬売りの彼がどうして直々にこうしているのかと言えば、AAという一人の人間に、良からぬ兆候を見たからだった。
今はまだ大丈夫。だがこのままではモノノ怪にのまれる可能性がある。そうと予見した人物こそ、今彼女の髪を撫で梳いてやっている薬売りさんだった。
だから私達は彼女に接触を試みた。
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雪猫と葛(プロフ) - とても面白くて楽しく読ませていただきました(*≧∀≦*)続きが気になって夜しか眠れないです(。・ω・。) (2020年2月11日 19時) (レス) id: 5feb56ae02 (このIDを非表示/違反報告)
月切 蛍(プロフ) - とっても面白いです!薬売りさんをこれで知ってはまってしまいました!!続き楽しみにしています! (2020年1月11日 18時) (レス) id: 34c99d5432 (このIDを非表示/違反報告)
ハイサネ(プロフ) - 前にも読ませて頂いており、また見に来てしまいました!続き楽しみに待っています!とても寒くなって参りましたのでお身体ご自愛下さいませ。 (2019年11月30日 13時) (レス) id: 31f88b5e8c (このIDを非表示/違反報告)
來蝶 - 一年程前に読ませて頂いて、また萌えを補給しに戻って参りました!!やべぇ尊い……鬼灯様も薬売りさんも大好きだけど、この夢主ちゃん好きです……… (2019年8月21日 23時) (レス) id: 561cea3de8 (このIDを非表示/違反報告)
いずみ(プロフ) - アナタ神ですか!?本当こんな夢が見たかったのです!本当最の高!続きを、続きをお願いします!!! (2019年8月19日 22時) (レス) id: 9ee472f10b (このIDを非表示/違反報告)
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