悪意は幸福の最中に襲いかかる。 ページ39
ふわぁ、と欠伸をひとつ、私は灯と碧に手を引かれてホームに立っていた。遠出のための電車待ちの時間、寝起きの私はしぱしぱと目を瞬かせる。二人が起こしてくれなかったら絶対に私寝坊してた。
「…あまりホームでフラつかないでくださいよ、A。」
「んむーん…じゃあ灯に寄っかかって寝る」
「せめて電車が来るまで我慢してください」
電車が来たら寝ていいのか。相変わらず優しいかよ。
ざわりと背筋が震えたのは、突然のことだった。
無意識に真上を見上げた私の視界の目の前にいたのは、真っ黒で大きくて、ギラギラした、猫だった。
あ、やばい。
私は咄嗟に二人の手を振り払った。ぐわりと大きな猫が口を開き、そのまま、私を、
「「Aッ!!」」
二人の切羽詰まった叫び声が最後だった。
どうしてか、心臓が熱くなったように感じた。
#
昔からわたしは愛されていた。
お父さんもお母さんも、お姉ちゃんそっちのけでわたしを愛してくれた。学校の男の子も女の子も先生も、みんなわたしを見てくれた。わたしを甘やかしてくれた。
みんなに無視されるお姉ちゃんの存在が何だか可笑しかった。わたしよりよっぽど真面目で優秀で、でも、人に甘えられない可哀想なお姉ちゃん。次第にわたしは、お姉ちゃんを追い詰めることに快感を覚えていく。
お姉ちゃんが就職した会社に、かっこいい男の人がいた。それはお姉ちゃんの上司だった。あの人が欲しいって思った、それは一目惚れだった。だからわたしはお姉ちゃんと同じ会社の同じ部署に就職した。
その人がお姉ちゃんの婚約者だって知ったとき、イラッとしたけれど、大して問題だと思っていなかった。だって、わたしを見ない人なんて今まで居なかったから。
可愛く頼って可愛く擦り寄って。そうすればみんなわたしを可愛がってくれる。愛してくれる。例え、お姉ちゃんと結婚の約束をしていたとしても。どんどんどんどんわたしに夢中にさせて、
後は、お姉ちゃんを突き落とすだけ。
嘘だと言って欲しかった。お姉ちゃんの婚約者だったあの人を寝取って、後はお姉ちゃんが会社の人達に追い詰められて、わたしより幸せにならないでくれれば、生きていることは許してあげようって思ってたのに。
とっても、綺麗だった。まるで人間じゃないみたいに、神様みたいに綺麗な人達だった。わたしが傍に居たいって思うのは初めてのことだった。
どうしてそんな人達の隣に貴方がいるのよ、お姉ちゃん。
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雪猫と葛(プロフ) - とても面白くて楽しく読ませていただきました(*≧∀≦*)続きが気になって夜しか眠れないです(。・ω・。) (2020年2月11日 19時) (レス) id: 5feb56ae02 (このIDを非表示/違反報告)
月切 蛍(プロフ) - とっても面白いです!薬売りさんをこれで知ってはまってしまいました!!続き楽しみにしています! (2020年1月11日 18時) (レス) id: 34c99d5432 (このIDを非表示/違反報告)
ハイサネ(プロフ) - 前にも読ませて頂いており、また見に来てしまいました!続き楽しみに待っています!とても寒くなって参りましたのでお身体ご自愛下さいませ。 (2019年11月30日 13時) (レス) id: 31f88b5e8c (このIDを非表示/違反報告)
來蝶 - 一年程前に読ませて頂いて、また萌えを補給しに戻って参りました!!やべぇ尊い……鬼灯様も薬売りさんも大好きだけど、この夢主ちゃん好きです……… (2019年8月21日 23時) (レス) id: 561cea3de8 (このIDを非表示/違反報告)
いずみ(プロフ) - アナタ神ですか!?本当こんな夢が見たかったのです!本当最の高!続きを、続きをお願いします!!! (2019年8月19日 22時) (レス) id: 9ee472f10b (このIDを非表示/違反報告)
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