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「名探偵、私は臆病で怖がりだけど、みんなのことを信じていたんだよ。私が存在しないと云っても、みんなは……君は、私が存在しているということを認識しているから、そこに矛盾が生まれる。『ふくろうがいた』記憶が消えても、その空白に違和感が生まれる。私が見たのはひと時の夢。君が見たのは水面を掻いた一瞬。どう足掻いたって、私は元の世界に戻ることはできないし、『存在していない』という言葉に矛盾が生じたことを認識した限り、この先、何度、私の存在を否定したって、私はこの世界に存在し続ける。この体は私の体だし、私は、この世界の住民だ」
名探偵だって、それはわかっていたはずだ。
なのに、こんなにも怒っている。
私は、思っている以上に、愛されていたのだな……。
どうしようもなく胸にこみあげるものがあって、名探偵を抱き締める手が強くなる。
「……で、わかったの」
名探偵が問いかける。
『何が』とは云わなかったが、私には彼が云いたいことがわかっている。
私がずっと欲しかったもの。
彼の人が躊躇い、この者が仮の物を与えてくれたもの。
いろんな理由を並べても、結局、その中で一番の目的のもの。
名探偵は、やっぱり全部見抜いていた。並べ立てた理由が、全部建前であったことも。
だからあえて、聞き返した。
「何がだい?」
「名前」
「聞きたいかい?」
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作者名:あき | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fallHP/
作成日時:2021年4月24日 1時