・占ツクver. ページ36
「……聞きたい」
少しの間があって、名探偵は云った。
私は、予想外の言葉に少しだけ驚いて、それでも、少しだけ笑って、口を開く。
「私の名前は村山Aだよ」
今しがた思い出し、初めて口にしたその名前は、ずっと忘れていたのにも拘らず、妙にしっくりと来た。
私が忘れ、彼の人が躊躇い、この者が仮の名を与えてくれた。
『ふくろう』
きっと私がそう名乗ることは、この先ないだろう。
それが少し寂しいけれど、ずっと求めていた名前だ。
私が私でいられる名前。
「『A』」
名探偵が、私の名を呼ぶ。
胸の底から湧き上がる、言葉にできない喜び。
きっと、顔にも出てしまっていることだる。
「なんだい?名探偵」
きっと、その先の言葉を私はずっと待っていた。
ずっと、心残りを作らないためと逃げてきたこと。
「……苗字を、『江戸川』にして。それで僕のことを名前で呼んでくれなきゃ許さない」
彼の、私を『引き留める言葉』を聞いて、沸き上がる感情をそのまま顔に出して……満面の笑みで、頷いた。
「お安い御用だよ、乱歩。私の愛しい、旦那さん」
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作者名:あき | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fallHP/
作成日時:2021年4月24日 1時