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ふくろうは手を伸ばして、乱歩の頬に触れた。
愛おしむように、それでいて、悲しむような瞳で。
視線に気づいてか、フニフニと指先で頬を軽くつまんで、感触を楽しむように誤魔化した。
乱歩はその手を、払い除ける気にはならなかった。
「それに、私は臆病で怖がりだからさ……私は、今から自分を否定するようなことを云うから、だから、もし帰れなかった時、君に肯定の言葉を云って欲しいんだ。何でもいい。また菓子を作ってくれでも、探偵社に来いでも、事件の現場に付き添いとして着いてこいでも。本当に、なんでもいいんだ」
つらつらと、まるで云い訳を並べるかのように、乱歩に『引き留める言葉』を言わせないようにするかのように、ふくろうは言葉を連ねた。
「ああそうだ。これを渡しておくよ」
そう云って、ふくろうはトートバッグから大きな袋と一冊の本を取り出した。
「君へのお詫びのために持ってきたんだ。これまで持って行ってしまったら意味がないからね。それからこれは、今は私の物になったけど、彼がずっと欲しがってたものだから、持っていく訳にはいかない」
半ば押し付けるように、その二つを乱歩に渡し、ふくろうは一、二歩、後に下がった。
そして、チョーカーの留め具を外し、地面に落とす。
ガシャンと、見た目からは想像できない重々しい音が響く。
疑似声帯の役割を持つそれが外されたということは、これから紡がれるのは、確実にふくろう自身から発された言葉だということだ。
乱歩にじっと見つめられ、ふくろうは少しだけ恥ずかしがるように、後で手を組んで小さく微笑んだ。
今まで見たことのない、ふくろうの笑顔。
乱歩は不満げに口をとがらせていたが、ふくろうは気にせず口を開いた。
「なあ、名探偵」
乱歩はその言葉の次に何が来るのか知っていた。
知っていても、止められないとわかっていたから、何も云わなかった。
「私は、最初からこの世界には存在していないんだよ」
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作者名:あき | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fallHP/
作成日時:2021年4月24日 1時