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乱歩は、駄菓子屋から古書堂までの道を歩いていた。
丸一日たったとはいえ、探偵社内はまだ片付けの真っ最中だ。落ち着いてお菓子を食べられるような場所じゃない。
お菓子を買って、それからふくろうにもお菓子を作ってもらって、社内が片付くまで居座ろうと思っていた。
「……」
数日前のことが、頭にフラッシュバックする。
気持ちを伝えても、ふくろうは態度を変えなかった。
ふくろうも乱歩のことが好きであるはずなのに、その告白に答えることは無かった。
そして、足りない情報を教えてもらっても、導き出される推理の結果は変わらなかった。
どうやっても、どうしても、彼女はこの世界からいなくなる。
彼女の記憶が、その方法を教えてしまう。気づかせてしまう。
「やあ、名探偵」
掛けられた声に、乱歩は足を止める。
目の前に、今まさに考えていた人物が立っていた。
「探偵社に行こうと思っていたんだ。すれ違いにならなくてよかったよ」
いつもと変わらない服装で、いつもと変わらない笑顔で、ふくろうは云う。
「私も、恐らく今日で君と同じ『名探偵』になったはずなんだ。まあ、2人で1人の名探偵だけどね」
その言葉の続きを、乱歩は知っていた。
ついに、彼女は知ってしまったのだ、帰る方法を。
「見つけたんだ。帰る方法を」
「君の記憶が、教えてくれた?」
ふくろうは目を見開いて、それから笑って頷いた。
「ああ。優しい人だからね」
一歩。ふくろうが足を踏み出す。
「もし、これで帰れるとしたら、君に一声かけなければと思ったし、帰れなかったとしたら、誰かに笑い話にでもして欲しかった。……『まだ、僕には及ばないね』って、君に云って欲しかった」
そう云いながら、1歩、また、1歩と近づいてくる。
「いや、まあ、少し違うか。半分はそうだが、もう半分はきっと」
乱歩より背の低いふくろうが、乱歩を見上げて僅かに微笑んだ。
「もし、本当に帰れてしまったとしたら、誰かの記憶に、誰よりも、君の記憶にほんの少しでもいいから残りたいと思ってるのだろうな」
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作者名:あき | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fallHP/
作成日時:2021年4月24日 1時