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気づいたとき、ふくろうはいなくなっていた。
目の前にいたはずなのに、先ほどまで頬に触れていたのに、まるで、元からそこに存在していなかったように、跡形もなく。
帰ってしまった。
いや、そもそも、彼女は白紙の書から呼び出されていたから、その存在は曖昧で不安定であり、存在していないも同然だった。
だから、その本と類似した異能をもつ彼女が、『自分は存在していない』と云えば、それは、『無が無に帰した』というだけで、彼女の異能力の制約に引っかからない。
乱歩は小さくため息をついて、手の中の物に視線を落とす。
彼女のことだから、僕に……………
「……あれ?」
乱歩は、手の中にある本とクッキーをマジマジと見つめた。
「何これ?」
いつの間に、持っていたのだろう。
本に見覚えも、クッキーを買った覚えもない。
駄菓子屋で見たこともないものだし、自分で買ったのなら覚えているはずだ。
それに、何で自分はここに立っているのだろう。
この道は、駄菓子屋から探偵社へ向かうには使わない。
めったに通らないはずなのに、妙に見慣れた感じがする。
「……っ」
思い出そうとするのに、何かに阻まれるように頭痛がする。
何か、大事なことを忘れている。それは、何だ……。
「……?」
ふと、クッキーに何かメッセージカードがついているのに気が付いた。
『世界一の名探偵へ。今までありがとう。それから、あと5分ほどここで待っていてくれるかい?そうしたら、君の云いたい言葉を聞くから』
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作者名:あき | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fallHP/
作成日時:2021年4月24日 1時