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イラつきを含んだ声に、ふくろうは少しだけ笑う。
「君は、本当に優しいね」
「はぐらかさないで。あんたも私も、政府を恨んでる。白紙の文学書での実験に巻き込まれただけなのに、今もさんざん利用されて、皆殺しにしたいくらいに。なのにあんたは、私にまで罪悪感を感じてる。それで、乱歩さんからの告白をはぐらかして、断ろうとしてる。ほんとにさぁ、バカじゃないの?」
「ばかって2回云ったね」
「もう何回でも云ってやるよ。バカバカバカバカバカバカバカバカバカばぁぁぁぁか!!!!!!あほ!おたんこなす!!すっとこどっこい!!ななしのごんべえ!!!!」
勢いのまま立ち上がり、暴言の限りを尽くす影に、『くすくす』とふくろうから笑みが漏れる。
「ボキャブラリー、乏しくないかい?」
「うるさい!!あーもう!!」
乱暴に椅子に座り、肘をついてふくろうを見つめる。
「私はさ、あんたみたいに頭は良くない。勉強も嫌いだし、本だって、漫画ばっかり読んでる。でも、いろんな経験をしてきた。漫画でだって、学ぶことはたくさんあった。善悪の判断は間違えないつもりだし、恨むべき相手をちゃんと恨んでる。それに、私は、全てのことに『理由』があると思ってる。一見理由がない、不条理で、非合理で、理不尽な事象にも」
「……」
「私がこの世界に呼ばれたことも、最初の一瞬を除いて、貴方という人格ができたことにも、きっと理由がある。それは、この世界を守るためだって信じてる」
「……」
「私が最初に『江戸川乱歩』という名探偵がいるって、貴方に伝えたのは、貴方がこの世界で生きたくないのかと思ったからだよ。何も知らない世界で、誰の物かもわからない体で、『私』という他人の声が聞こえてくる薄気味悪い状態で、政府に縛られたまま、この先の一生を過ごしたくないのかと思ったから、きっと帰る方法を教えてくれる乱歩さんのことを伝えた。私が、貴方が持ってる私の体を返してほしかったわけじゃない。そんなこと、微塵も思ってない」
影は『はー』とため息をつきながら、背もたれに身体を投げ出す。
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作者名:あき | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fallHP/
作成日時:2021年4月24日 1時