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「あんたのその生き方はさ、私への罪滅ぼしのつもり?」
「……」
ふくろうはじっと押し黙り、揺れる水面を見つめていた。
「いいや」
首をかしげて、ふくろうは答える。
「嘘が通じないって言うのは、わかってるでしょ?私、自分の癖は把握してるつもりなんだけど。ついつい無意識にやっちゃうだけでさ。あんたもそれは同じだし、あんたのそれはわざとも含まれてる。そうでしょ?」
「……そうだな」
ふくろうは、瞳を閉じながらゆっくり頷いた。
「大体、乱歩さんに向かって『私の気持ちに寄り添いたい』なんて言ったくせに、本人前にしたら誤魔化すってのは、無理があるよ。私はずっとあんたの中で、この世界を見てきたんだから」
「ああ。知っている」
「もう一回聞くよ。『あんたのその生き方はさ、私への罪滅ぼしのつもり?』。体をもらい、記憶を押しのけ、『ふくろう』という名をもらった自我の」
「ああ、そうだよ」
鋭い視線を受けながら、ふくろうは目を開けて影を見つめた。
ゆっくりと、けれどもしっかりと、嘘偽りのない瞳で、頷いた。
「君の言う通り、君の体を奪い、君の未来を奪ったことへの罪滅ぼしのつもりだ。できることなら、君が好きだった彼のことも助けたかった」
「そして、私に体と未来を返すために、元の世界に戻る方法を探してる」
「名探偵には、断られてしまったがね。ある程度の見当はついている」
「そんなことを、私が望んでいるとでも?」
「望んでいないことはずっと昔から知っていた。でも、私の気が済まないんだ」
ふくろうの言葉に、影は呆れたようにため息をついた。額に手を当て、カウンターに肘をつく。
「あのさぁ……ふくろうって頭いいくせにバカだよね」
『バカ』を一際強調したその言葉に、ふくろうは少しだけ首をかしげた。
「君の未来を奪ったのは私なのには違いないだろう?」
「まあ、そうなんだけど。そうなんだろうけどさ、そうじゃないじゃん。大体、私がなんで安吾を恨まずにいるか知ってるでしょ?私が恨むのはいつだって『元凶』だからだよ。私の未来を奪ったうんぬんかんぬんは確かにあんたが責任を感じるに値するかもしれない、けど。私が重視するのはそこじゃない。『そもそも』なんだよ。そもそも、政府が『白紙の文学書で人を生み出す』なんて思いつかなければ、私はこの世界に居ないし、あんたも生れなかった。そうでしょ?」
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作者名:あき | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fallHP/
作成日時:2021年4月24日 1時