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ぼーっと立っていたってしょうがないので、いくつも並んだ本棚を見て回ることにした。
ぎっしりと詰められた本の背表紙を見ながら、気になった本を手に取りながら、目的の本を探す。
いつの間にかカウンターの奥に少女は戻って来ていたが、それに気づかないほど、少年は夢中で本を見て回っていた。
気が付くと、日は沈んで、窓の外は暗くなっていた。
本棚を端から端まで見終わった少年は、ハッとして店内を振り返る。
カウンターの奥では、少女がティーセットを横に、小説を読みふけっていた。
「すまない。長居をしてしまった」
カウンターに近づきながら、少年が声を掛けると、ゆっくり少女が顔を上げた。
そのままぼーっと、無言で少年を見つめる。
「……何か、俺の顔についているか?」
「あ、ああ……いや、つい見とれてしまってね」
立ち上がって、カウンターから体を乗り出し、少年の頬に触れる。
「君は素敵だね。夕焼けと青空を併せ持っているようだ」
両手で頬を包んだまま、少女は少年の顔を、髪を、瞳を見つめていた。
少年は、夜の闇をそのまま溶かし込んだかのように真っ黒な瞳に己の姿が映るのを見て、頬に触れる小さな手を振り払った。
「ああ。すまない」
「いや……。目的の本がなかったからもう帰る。閉店時間を伸ばしてしまったようだったらすまない」
「おや、それはすまなかったね。それと、閉店時間のことは気にしなくていいよ。初めにも言ったが、この店は開店したばかりで、店名どころか、開店時間も閉店時間も決まっていないんだ。それに、記念すべき1人目のお客人を、むげに扱うことはできない。そうだ、このお店は、注文販売みたいなのを本業にしようと思っているのだが、もしよければ使ってみてはくれないか?」
「そうなのか?」
「ああ。入荷時期はいつになるかわからないから、途中でキャンセルしてくれても構わない。どうだろう?」
「では、お願いする」
「ありがとう」
そう云って、少女はほほ笑んだ。
「では、わかるなら本の題名と、作者の名前と、それから依頼主である君の名前を」
少年が、それらすべての情報を少女に教えると、少女は再び泣きそうなりながらも頷いた。
「必ずや、入荷してみせましょう」
見た目にそぐわない口調で、年相応の笑みを浮かべて少女は云った。
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作者名:あき | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fallHP/
作成日時:2020年11月30日 15時