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ぽつり、そう呟いて目の前の人物の返答を待つ。じっと、緊張した面持ちのまま数秒が経過した。
彼はきょとんと一度目を瞬かせ、へぇと小さく息を漏らす。かと思えば、くすくすと笑い出して黙り込む。
可笑しい。
普段とは全く異なった言動を取る赤司君を眺めながら、何も出来ずその場にじっと立っていた。夏の遠征を見る限り合宿で羽目を外す様には見えないし、今日一日ほぼ一緒に行動していたが変な物を食べた覚えも無い。
何かあったとしたら、練習試合の観戦の時。
赤司君の様子が可笑しい時は、八割方バスケに関連する事が要因だ。
普段から観察眼は怠らない様にしてるけれど、見落としているかもしれない粗を必死に思い出す。吸い込まれそうなオッドアイに焦点を合わせたまま、頭に記憶が駆け巡る。
その時、想像もしなかった程酷く甘ったるい声が目の前から放たれた。
「A」
どうやら其れは自分の名前らしかった。
妖艶な響きを持った其の言葉は聴きなれなくて、思わず耳を疑う。
下の名前、初めて呼ばれた。
薄く細められた両目には、呆気に取られた自身の顔が映り込む。眉が下がっているのとは対照的に口の両端は緩やかに上がっており、どうやら赤司君は微笑んでいるらしかった。
其の声と表情に不意にどきりとしたが、頭を切り替えすぐさま真意を探る。彼の突飛な発言には慣れていたつもりだったが、今回は完全に虚をつかれた。
普段でも彼は笑った。
だが其れは、社交的な作られた笑みであったり、絶対を振りかざす脅威の笑顔に過ぎない。
バスケ部の、例えば葉山先輩と一緒に楽しそうに笑っているように見えても、何処か壁を感じるようでよく相談されたくらいだ。
赤司君に落ちた女子も、大抵は表向きの完璧な王子様像に惚れ込んでいる。
そんな彼が、見た事も無いような優しい顔をしたものだから、迷わず彼を疑った。
今目の前に居るのは、果たして私の知っている赤司君なのだろうか?
其れとも、もう一人の_______
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nome(プロフ) - あまねさん» 返信大幅に遅れて申し訳ありません。楽しみにして頂けてとても嬉しいです!更新はのんびりとお待ち下さいm(__)m (2018年3月18日 11時) (レス) id: 981a85eb0c (このIDを非表示/違反報告)
あまね - この作品大好きです(*^^*)更新を楽しみに待っています!! (2017年5月7日 19時) (携帯から) (レス) id: 743e4dcd22 (このIDを非表示/違反報告)
nome(プロフ) - みずあいすさん» そうなんですね!仲間だと知れて心強いです(`・ω・´)私は行きたい大学がありまして、かなり難関なので気合いを入れたくて(笑)お互い頑張りましょう〜!! (2017年4月6日 20時) (レス) id: 1efffa79be (このIDを非表示/違反報告)
nome(プロフ) - こうちゃさん» 繊細……!勿体無いお言葉です、有難う御座います!何時もコメントに励まされておりますm(_ _)mお待ち頂ける事が最大限の励みです……!受験勉強に精一杯挑んで、戻って参ります!! (2017年4月6日 20時) (レス) id: 1efffa79be (このIDを非表示/違反報告)
みずあいす - 私も来年受験生です。辛い……。勉強とか考えてなかったので、正直現実を叩き付けられました、ありがとうございます。幸せなエンドを迎えられることを祈って!頑張ってください! (2017年4月5日 21時) (レス) id: 94c5760bdb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:nome | 作成日時:2016年8月8日 16時