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ゾムに連れられて歩き始めたAが、ゾムの言葉に思わず何故と零すと少し沈黙のあとに自身が2ヶ月で感じたAの人の好さを説いた。
「確かにX国の奴は好かんけど、Aは別やろ。そんなん見てれば誰だって分かる」
「そんな、たった2ヶ月で分かることなど」
「分かるんや。色んな人間を見てきた奴は特にそういうのを嗅ぎ分けるのが上手いんやで。俺やってずっと裏で色んな奴をみてきたんや」
少なくとも、幹部も総統もある程度の信頼を置いている人物を疑う理由などない。
手を引かれながら返す言葉を考えているだろうAの先制をとるように、ゾムは言う。
「Aは悪い奴やない。X国のことはどうでもええけど、Aのことは守ったるよ」
優しい声色のゾムに、Aは何も返せなかった。
何か言いたげに、だけど何も言えずにいるのを感じ取ってゾムも何も言わずにAを連れて我々軍基地へと手を繋いで連れ帰った。
まるでAの帰る場所はここだと言われているような感覚に、くらりと眩暈のようなものがAを襲ったが表情に出ないように懸命にそれを押し止める。
どうにか蚊の鳴くような声で出たお礼の言葉に、ゾムは短く一言返事をしただけだった。
Aが今何を思っているのか、考えているのか、それを無理に聞き出すことをしないゾムに思考が鈍るのを感じた。
「ゾムさんは…」
何もまとまっていない中で朧げにかけたAの声に、ゾムは律義に「うん」と反応を返す。
それすらを思考を鈍らす材料として、Aの気持ちを混濁させていた。
「この国が好きですか」
微かに震える声に、ゾムがなんと返そうか少しだけ考えていると、Aの言葉が続く。
「もしこの国が好きで、この国のすべてを守りたいのでしたら」
一拍置いたAは、さらに言葉を続けた。
「どうか私の言葉を、私を信じないでください」
その言葉に思わず立ち止まって勢いよく振り返るゾムに、Aは寂しそうに微笑むだけだった。
はくり、と何か言おうと開口しても結局何も言えずにゾムはぎゅっと繋いでいる手を握りなおしてAを客間へと送り届けた。
礼を言ってドアを閉ようとするAの手を思わず引けば、つんのめったAは驚き目を見開いた。
「ゾムさん…?」
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作者名:乃鴉 | 作成日時:2020年6月24日 19時