夢桜５* (ページ33)

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「俺も、書類まとめないとだなぁ」

翔さんもため息をつきながら部屋を出た。

「あの、孝之さん」

「ん？」

部屋を出て行こうとする孝之さんに声をかける。

「白風のこと・・・」

「うん。大丈夫だよ。もうあれは弟の信之じゃないからね。

信之の形をした化け物だよ。だから斬るなんて抵抗ない」

孝之さんは笑顔だったが、目の奥が笑っていなかった。

そしてあたしの中で引っ掛かるものが大きくなった気がした。

「でも・・・」

「心配してくれてありがとう」

あたしの言葉を遮るように孝之さんは言葉を発する。

そしてあたしの頭を乱暴に撫でた。

「ねぇ、せっかくだし、和が康則を脅すところ見たくない？」

いつも通りの孝之さんの笑み。

悪戯っぽい笑みを浮かべ、和さんや翔さんに怒られそうなことを提案する

いつもと変わらない孝之さん。

一番年上なのに一番無邪気かもしれない。

やっぱり、あたしの気のせいだったのかな・・・。

「でもそんなことしたら和さんに怒られそうで・・・」

「翔も丸め込むから大丈夫。夕刻になったらお嬢のこと迎えに行くね」

手をヒラヒラと振って去って行ってしまった。

あたしも自分の部屋に戻って、雑務を行うことにした。

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～孝之side～

お嬢と別れてため息をつく。

先日、気分転換がてらに町に散歩にでた。

その時に、信之と会った。

「共に逃げよう」

信之と会った瞬間、咄嗟に出た言葉だった。

唯一の血の繋がりがある家族であり、俺が信之を連れて行けば

和にも翔にもお嬢にも何も被害なく事が終わると思った。

「ねぇ、兄貴。何言ってるか分かる？」

冷めた笑いだった。信之にそんなことを言わせることを俺はしたのだ。

「どうすれば共に逃げてくれる？」

俺は信之に問う。

「でも、兄貴は和側の人間だろう？俺を捕まえて差し出す気でしょ」

「どうすれば俺を信じてくれる？」

「女連れてきてよ。和の女」

「お嬢のことか」

「あぁ。Aって女。その女連れてきてくれたら

兄貴のこと信じて一緒に逃げるよ」

信之の冷酷な笑み。兄である俺でさえも何を考えているか

分からない。