【文豪ストレイドッグス】私は待っていた

第二十八話 ページ30

　
枷は人形だった過去の自分を象徴する物。

感情はなく、表情もなく、声も出さない。

息をする事だけが、私を人だということを証明した。


でも、今は違う。

全然違う。



感情もある。


表情もある。


声も出すの。



私は人形じゃない。






　
吸い付いた銃口が跳ねて、昨日の私を貫いた。


過去はここに、置いていこう。






　



ーーーカシャン



枷が落ちる。



その視界の端には、赤い痣のある足首。

たぶん、その痣は手首にも首にもある。

…消えるかな？

いつかでいい。

いつか過去を受け入れられたら、それで。


首は久し振りに空気に触れた。

ちょっと涼しい。


貴「…今、行くから」


前を向いた。


私は床を蹴った。

全力で走れた。


火傷をした足の痛みは、もう気にはしなかった。


貴「ハッ、ハッ、ハッーー」


ーー昔と同じように走れてる。

私はまた、走れてる。


ちょっと思い出した、昔の記憶。


広い草原で私は走ってた。

前にはお姉ちゃんがいる。

顔はよく見えないけど、笑っているような気がした。


……だめだめ。


早く、もっと早くーー


皆に会ったら言うんだ。









ありがとう。









ずっと言えなかった。


助けに来てくれたとき、

扉を開けてくれたとき、

本当は謝るより先に言いたかった。


言えなかった。

だから、言いたい。









これからも、よろしくお願いします。









そして、もし許されるのならば。


私はもう少し、皆と一緒にいたい。

迷惑をかけてでも。

一緒にいたいんだ。


…皆、何て言うかな？



考えたことなかった。

未来の事なんて。

過去ばかりを振り返ってばかりで。


…未来を想像するって、こんなに楽しいんだ。





アリスは前に進んだ。


この先は、アリスが知らない外の世界。

アリスにとっての不思議が一杯詰まった世界。


不思議の国へ、アリスは進んでいった。


物語はまだまだ終わらない…。





　

第二十九話→←第二十七話

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す