柄でもない ページ14
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今までラクサスの口から直接親の話を聞いた事は無い。
お互いが避けていた訳では無く自然とそういう話になる事がなかった。
だから彼がイワン……実の父親の事をどう思っているのかは分からない。
考えたくもないけど、情に流されて易々と手を貸すなんてことしないよね……ラクサス。
柄にもなくラクサスが
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だが、その恐怖は予想外の形で取り除かれる事となる。
それは突然の出来事。
戦っていた傷だらけのラクサスがグニャリと歪み、渦巻く靄の中からもう一人のラクサスが姿を現した。
『こ、これは一体……!』
会場がざわめき出す。
霧が晴れた闘技場には、一人ポツンと立っているラクサスと何故か地面に這いつくばっている
そしてめり込むように壁に張り付いているアレクセイ……ではなく、仮面の外れたイワン。
『先程まで戦っていたラクサスとアレクセイは幻だったのか!!立っているのはラクサス!試合終了!!』
誰もが予想だにしなかった結末。
私も例外じゃない。
完全に幻に騙されていた。
「ラクサスのお迎えに行くの?」
全てを見届けこっそりと応援席から出ていこうとすると、ミラに声をかけられた。
「いいや、お酒を調達しに」
空になった缶をひっくり返して見せる。
「気をつけてね」
笑顔で見送ってくれるミラに軽く手を上げ、私はその場を後にした。
今は、一人になりたかった。
柄にもなくラクサスが消えることを恐れた自分が恥ずかしくて、お酒の力で全て記憶から消したかった。
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作者名:梅水晶 | 作成日時:2022年12月31日 16時