神に仕えし巫女 ページ25
ーヒノカミ神楽...ー
Aもかつてよく目にしていた。
強く記憶に刻まれているのは、ぐるりと円を描く様に揺らめく松明の炎と、その中心でひたすら舞を繰り返す竈門家男子達の姿だった。
父が亡くなってからは、竈門家の大黒柱となり、舞の手順を教えられていた長男の炭治郎がこの仕事を受け継いだ。
父亡き後、訪れた初めての年明け。
炭治郎は装束衣装を身にまとい神楽鈴を持ってあの場所に立っていた。
彼が数回深呼吸すると、辺りの空気は一気に
Aはごくりと息を飲む。
「今日初めて一人で踊るんだね。炭治郎、頑張って?」
堪らずそう声を掛けると、彼は炎と書かれた面布を片手で僅かに持ち上げた。
「!..」
その眼差しに不覚にもどきりとした。
奥にある優しげに弧を描いた赫い目が、Aを見つめ返す。
「ありがとうA姉さん」
そこから彼は、十二あるヒノカミ神楽の舞をひたすら繰り返す。
時折シャン、シャンと響く神楽鈴の音が、神聖な儀式である事を示していた。
身体を軸に手足の末端まで洗練されたその一つ一つの動作に、息をするのも忘れてただ見惚れた。
母に呼ばれても、Aはしばらくその場を動かずに彼を見つめていた。
いつまででも見つめていたい、見届けたい。
懐かしい遠い記憶を思い起こさせるその光景に、気付けばAは涙していた。
「あれ..何で...私」
「...A」
自分が何故泣いているのかわからず、ごしごしと袖で目元を拭う。母はそんなAを優しく抱き締めてくれた。
炭治郎は父に、ヒノカミ様になりきるのだと教えられていたらしい。
そうする事で、雪がしんしんと積もりゆく真冬の冷気などものともせずに、身体を動かし続ける事が出来ると言う。
確かに....
目の前で鮮やかに舞う人物は、炭治郎ではなかった。
それは紛う事なき【ヒノカミ様の御姿】だった。
Aは惹かれるように松明すれすれまで彼の側に近づいていくと、その場で両膝をついた。
雪が溶けてじんわりと着物に染みていくのを気にも止めず、深々と頭を下げる。
本能的にそうせずにはいられなかった。
ー【それは、巫女が神に仕える姿そのもの】ー
今思えば、あの時から私は薄々感じていた。
耳飾りを継承した炭治郎は、同時に神の器を受け継いだのだ。ヒノカミ様はきっと、私達を明るい未来へと導いてくださる。
ー彼の事も...きっと見守ってくださるー
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八千代(プロフ) - あいさん» リアルの日常とても辛い思いをされてるのですね..私の作品が少しでもあいさんの普段の楽しみになれたのならこんなに嬉しい事はありません。私こそ暖かいコメントに勇気とモチベを貰えました笑ありがとうございます! (2021年5月20日 22時) (レス) id: cc4d50fa77 (このIDを非表示/違反報告)
八千代(プロフ) - あいさん» コメントありがとうございます(*´-`)何度も読み返してくださってるなんて光栄です!亀更新で本当申し訳ないのですが、私も思い入れのある作品なんで、頑張って書きます!ありがとうございます!冨岡さんの夢は初挑戦ですが星詠み終わったら検討いたしますね(*^^*) (2021年5月20日 22時) (レス) id: cc4d50fa77 (このIDを非表示/違反報告)
あい(プロフ) - 続き→冨岡さん落ちの夢小説も読んでみたいです!あくまで個人的な希望なので無理せず、ご検討よろしくお願いします!私は精神障害で親からの当たりも酷くて毎日死ぬほど辛い状況ですが、このお話を読んで少し元気をもらいました。ありがとうございます! (2021年5月20日 20時) (レス) id: b63ea41164 (このIDを非表示/違反報告)
あい(プロフ) - こんばんは!このお話とっても面白いですね!既に5回くらい読み返してます!そのくらい好きなお話です!更新を楽しみにしています!これからも、頑張ってください!応援しています!個人的な希望なのですが、このお話が終わったらでもいいので、八千代さんが書いた、 (2021年5月20日 20時) (レス) id: b63ea41164 (このIDを非表示/違反報告)
八千代(プロフ) - 花霞さん» 良かったです(^^)ありがとうございます!これからも頑張ります! (2020年12月7日 18時) (レス) id: 23228d6fd7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:八千代 | 作成日時:2020年8月30日 22時