大谷吉継/キズナ ページ6
徳川め、と吉継は厚く巻かれた包帯の中で低く唸った。
憎き徳川との大戦である。
吉継は猛り、そして怒っていた。
そして恨んでいた。羨んでもいた。
あの何の欠落もないい笑顔を浮かべる好青年を。
太陽と称されながらも、三成に比類なき闇を落として行き、豊臣から離反し、ついでに吉継から唯一の幸を奪っていったあの狸を。
苛立ち任せに周りの兵を敵味方とくに気にせずなぎ倒した。
何時もは愉しく聞いているむさくるしい男たちの堕落する際の阿鼻叫喚も、ひとたび鼓膜を通り吉継の中に入ると、苛立ちに変わる。
そして。
目の前で目をひん剥いて倒れた徳川の兵の、その背中の葵紋の指物を、背骨ごと数珠で砕いたとき、その声はした。
** ** ** ** **
「大谷刑部少輔吉継、覚悟召されい!」
目の前でふよりふよりと輿に乗って浮く敵の後ろ姿を睨み、Aは叫んだ。
徳川兵と豊臣兵の亡骸が犇めきあう戦場の地に、自分の甲高い声が響く。
大きな武功を立てられるようにと、侍大将に為ったばかりの私に、家康様は敢えて大谷隊と近くに布陣すべきと仰られた。
それも、私のすばしっこさを認め、その上での配慮であった。
くるりと体ごと振り返った怨敵は、此方を凝視してから、表情を動かさず声を発した。
「何かと思えば、逃げたはずの幸が自ら来やったわ」
ここでその色彩が反転した目が吊り上がって弧を描き、表情が作り出された。
「しかしぬしに傷をつけるのは、敵とてわれの本望ではない故な。一騎打ちなら御免被ろ。A」
小馬鹿にしたような口調と、嘗め回すような視線。そして、自分を呼んだ耳朶に絡みつくような甘い低声に、背中がゾクリと粟立ち、体の芯が砕けるような感覚を覚えた。
「ヒヒ、そうよな。
ぬしには暫く眠ってもらお。」
「黙れ!つべこべいわず早に・・・」
後頭部に重い衝撃。一瞬にして目が眩んだ。
どうやら知らぬ間に彼の操る数珠が後ろに回されていたらしい。
不覚。Aは歯を食いしばった。
しかし、その思考もそう長くは続かない。
意識が暗がりに溶け込む。
直前に見えたのは、いやらしく目を細めた大谷刑部。
そして・・・。
「なあに。
ゆっくり時間をかければぬしも次第に絆されよう。
ぬしの慕う主が謳っておるキズナとやらを結んでみるか」
気絶した女を抱き上げ、吉継は霧に消えていった。
其れを咎めようとするものはもういない。
「さすれば、ぬしはわれのものよ。
もう離しはせぬわ。」
石田三成/たとえるなら、私たち(ナッコ様リク)→←前田利家/偽る
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希望(プロフ) - 失礼します!リクエスト、させて下さい!良かったらですが、政宗様のお話をリクエストしたくて…学バサの方でリクエストしてもよろしいですか!!? (2017年6月8日 19時) (レス) id: f217a178dd (このIDを非表示/違反報告)
椿(小石の方)(プロフ) - 舞姫さん» はい!了解です。前の黒丸様と順番がゴチャゴチャになってしまうかもしれないのでご了承下さい。 (2017年4月1日 12時) (レス) id: 2a1e88c7e9 (このIDを非表示/違反報告)
舞姫 - リクエストでーす!えっと……竹中半兵衛様。明智光秀様を、出来たらでいいので、お願いしま~す。 (2017年3月25日 10時) (レス) id: f50ff2d6e1 (このIDを非表示/違反報告)
椿(小石の方)(プロフ) - はい!返信遅くなり申し訳ございません!別々で作らせていただきます。何かあればまた仰ってください (2017年3月23日 0時) (レス) id: 2a1e88c7e9 (このIDを非表示/違反報告)
黒丸 - リク良いでしょうか。弁丸、梵天丸、アニキお願い致します。 (2017年3月19日 22時) (レス) id: 892b25096f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:椿(小石の方) x他1人 | 作成日時:2016年6月27日 18時